一瞬の沈黙の後に、二人の狩猟者がぶつかり合う。

冥加の影から刃を生み出す虚空を冥加が術式で吹き飛ばす。

「こうやって君とはケリをつけたかったんだ」

「僕には興味ないね。」

「つれない事を言うなよ――」

冥加の周囲に4本の白金の槍が出現する。

「『無詠唱』か。」

「ビンゴッ!」

槍が放たれる。

虚空は初撃を先ずは右腕で払い飛ばした。

迫る第二撃は『加速式術式』で起動をずらす。

三撃目は翳した手でそのまま掴み取る。

そして、それを投擲する事で第四撃を相殺した。

「お見事。

でも、その余裕――気に食わないな。」

冥加が走る。

その手に無数の魔力を込めて――。

「お前の相手をするつもりは無い。

だが、そんなに喰われたいなら――。」

「させないよ!!」

冥加が瞬時に作り上げた『魔皇の宝剣』が振り下ろされる。

だが、虚空はそれを受け止めようとはしない。

「喰わせてやるよ、覚めない悪夢を!!!」

瞬時に世界が歪む。

魔皇の宝剣は虚空を捕らえる事無く消失する。

そう、そこは既に覚めない悪夢。

虚空の世界にして、彼に牙剥く者達の処刑場。

「その辺のザコ相手なら、君の能力も最強だろうね。」

冥加に動揺した気配は無い。

「君の世界など――」

無数の影の刃が冥加目掛けて突き進む。

「お遊びに過ぎないんだよ!!!」

冥加が手を一閃させると、影の刃は砕け散った。

即座に冥加が背後へと手刀を翳す。

その背後には影の刃を構えた虚空がいた。

距離を取ろうとする虚空の腕を冥加がつかむ

「この距離ならガード不能だろ?」

冥加が『力ある言葉』を放つ。

光の無詠唱術式――『誘うは天帝の聖剣』

『魔皇の宝剣』と対を成す光属性の術式。

虚空が強引に冥加の手を掴む。

「そのまま喰らうのかい?属性的に君には致命傷だろ?」

「黙って飛んでろ。」

聖剣が振るわれるよりも早く、虚空が冥加を投げ飛ばす。

二人の狩猟者は再び距離を置いた。

「君の裏切りを伝えるつもりは無いよ。

君は僕がここで殺すから。」

「どちらもゴメンだ。

意地でも引きずり込んでやるよ、僕の世界に――」




    #06 Mortal Intents - Count Down to Catastrophe -



真尋たちが線路を走る。

章吾が敵と交戦状況に陥ったのは既にわかっていた。

上り線で戦闘が起きたなら、下り線を逆走するのみ。

魔尋と沙穂、そして奈央はもういくつかの駅を通り抜けていた。

目的の駅まであと数駅である。

「だが、そう簡単には行きそうにないな――。」

数匹の業が線路上に配置されていた。


真尋の姿を捉えた蜥蜴のような業が嬌声と共に迫り来る。

「『誘うは大地の咆哮』!」

真尋は術式で蜥蜴を容易く消滅させる。

沙穂が自らの姿を在るべき姿へと戻す。

「ザコに構っている時間は無い。

突破優先で突き進むぞ!!」

術式の波動、そして槍が振るわれる音が空洞に木霊する。


「全く、最近俺いい格好見せれてねぇなぁ……。」

章吾は上がり線を走りながら、そう呟いていた。

先行していると思われる奈央達の姿は未だ見えない。

背後では竜崎とヘルの戦いの音、爆発の音が響いている。

「あの狂犬がやりたいなら、やらせてやるさ。」

章吾はヘルの能力の恐ろしさを感じ取っていた。

その密閉空間ゆえの、その恐ろしさを――。

前方にチラチラと光が見えた。

地上はまだ朝といえる時間ではないはず。

そう、獲物を見つけた業達の喜びに濡れる瞳。

「『隔世』か。」

『大牛』や『紅目』に比べると全く存在を異とするタイプの業である。その数7匹。

虚空と同じように精神世界からの襲撃を得意とする。

そして、その透明感漂う、幽霊のような姿は術式が使えない章吾にとっては厄介な存在である。

事実、章吾の目の前で一匹の『隔世』が闇へと溶け込もうとする。

だが――。

「消えるよりも早く、潰しちまえばそれでいいだろ?ナァ、オイ!!!」

能力を発動させ、一瞬で『隔世』を滅ぼした章吾が咆哮する。

同胞が倒された事を見た、『隔世』6匹が同時に闇へと溶け込む。

「もぐら叩きの要領だろうが!!!」

章吾が瞬時に背後から襲撃を企てた『隔世』を砕く。

拳が無数に振るわれる。

そして、章吾が拳を下ろした時には、既に残る6匹の『隔世』はどこにもいなかった。

「誰も見てないのに、俺超サービス精神。」

章吾は己を嘲笑しながら走り始める。

一分でも早く、仲間達と合流するために。



     *     *     *


少女は車の外を眺めていた。

何故高速道路が崩れているのだろう。

さっきの音は何だろう。

少女は大好きなママに尋ねてみたが、ママは何も教えてくれなかった。

お爺ちゃんの家から、緊急の用事でこんな遅く家に帰る事になったのだ。

それなのに、高速道路は原因不明の事故で緊急通行停止。

少女とママは誰もいない道路をまるで貸切のように走っていた。

少女は何も答えてくれないママではなく窓の外を見ることにした。

「アレ?空飛ぶ自転車!?」

少女が唐突に叫ぶ。

窓の外を見ると、バイクが宙を待っていた。


「YEAHEEEEE!!!」

ボブが叫びながらバイクを走らせる。

冥加が呼び出したのだろう。

無数の業が行く手を阻むが、浩介がそれを桜花で切り裂く。

「昔やったゲームでよ、主人公がこんな風にバイクで走ってたんだよ。」

ボブが呟く。

「で?」

浩介はさほど興味がなさそうに答えた。

その瞬間にも剣を振るい、纏わりつく業を始末することも忘れない。

「俺、アイツが好きでさ。」

「前見ろ。」

興奮したボブが浩介のほうを向こうとしていた。

「お前が運転ミスったら、このスピードだと死ぬぜ?」

既に速度は時速200キロ。

浩介は普通のバイクでここまでの速度を出せるのかは知らなかったが、

剣を振るうだけでも、かなりの風圧に阻まれる。

それでも、剣で業を切り裂けるのは、剣が桜花であるからだろう。

「でさ、最後にデカイのが追って来るんだよ。」

「追ってきたら困るから。」

浩介が即答する。

ただでさえ、篠崎のせいで時間が遅れているのだ。

一分遅れれば、それだけ壱与の命が危険に晒される。

「おっ、そろそろみたいだぜ?」

ボブが出口を示す看板を指差しながら、ハンドルを切る。

「だろうな、敵の歓迎も凄まじくなってきたしよ。」

群がる業が増えてきているのは、目的地が近いという何よりの証拠であろう。

「気合入れろよ、ボブ!!」

「言わずもがなさ、ソウルブラザー!!!」

ボブがアクセルを踏み込み、バイクは更に加速する。

目的地は、最早目前――

即ち、決戦の時は近い――。



     *     *     *


暗がりの中、二人の男女が部屋にいた。

一人は投馬壱与と呼ばれている少女。

そして、もう一人は断罪者・双夜水月。

「お前を助けにナイトどもがここに来る。

そして、俺がそれを一人残らず斬り殺す。」

水月は嬉しそうに嗤う。

「それで全てが終わりだ。」

「いいえ、終わらせない。

裁定者は来ないもの。」

「如何して、そう言える?断罪者と裁定者はひかれ合う。

お前という餌がなくてもぶつかり合う時は来るのさ。」

「ならば、如何して私を攫った!?」

壱与の気丈な態度に水月は首をすくめて答える。

「精霊音素。恨むならそんな能力に覚醒したことを恨むんだな。」

水月は立ち上がる。その手には一振りの刀。

「時間だ。」

水月が何かを感じ取るかのように、辺りを見回す。

「時間?」

水月は何も答えずに黙って部屋を後にする。

ゴトン、という重い音を立て閉まると、壱与を静寂が包み込んだ。


こともあろうか、工場に一番最初に着いたのは奈央であった。

真尋は未だ地下鉄内部で無数の業と交戦中である。

「状況を一刻も早く篠崎さんに知らせるんだ。

最悪増援を要請するにも、敵の規模がわからなければどうしようもない。」

真尋はそう言うと、奈央の為に道を切り開いた。

奈央はただ、真尋が作ってくれた道を走り抜けただけである。

「嫌になるな…章吾も真尋さんも、私と違って力がある。

私には結局、何も出来ないんだよね……。」

そう口では言いながら、奈央は自分のやるべき事を理解している。

内部の様子を少しでも見て取れればいい。

危険かもしれない。だが、時間が無い以上、躊躇う時間は欠片も無い。

(行こう、奈央)

奈央は自分を振り立たせると工場の扉に手をかけた。

ギィ――

油が切れているのか、鈍い音を立て扉がゆっくりと開く。

(重い――!)

だが、その重さが一瞬和らぐ。

その瞬間、奈央は遥か後方へと吹き飛ばされた。

頭を思い切り壁に打ち付ける。

「アッ――。」

衝撃が体中を突き抜ける。

「だ……れ……?」

「おやおや、すみませんね。

侵入者が女性だと知っていれば、少しだけ力を弱めたのですが――。」

「しゅ……りょう者?」

「ええ、狩猟者です。」

奈央は自分の意識が遠のくのを感じた。

頭では理解している。

意識が飛んだ瞬間、もう恐らく二度と自分は目覚めない。

この傷はどれだけ酷いのだろうか。

生暖かい物が流れ落ちる感触がこの上なく気持ち悪い。

「初めまして。そして、さようなら。」

目の前の狩猟者が手を自分へと向ける。

(止めを刺される――)

意識がスローになる。

(せめて体さえ、動けば――)

目蓋が自然に落ちてくる。

(誰か回復を――)

その誰かがいれば自分はこんな目にはあっていない。

(私、諦めて――死ぬのかな――)

奈央は、自分の体がどこか深いところへ落ちていく感触に襲われた。

(死ぬ?死ぬんだ、私――。)

「おや?」

(この状況に似合わない間の抜けた声を出すのは誰だろう。)

直後、体の落下が止まる。

暖かい何かが自分の体を包み込む。

これは自分がいつも誰かに与えている力。

そう、回復の術式だ――。

奈央が目を開いた時、そこには見慣れた顔があった。

「よう、目が覚めたか?幼児体型。」

「ば…か。」



救出チーム 残存戦力 4名





     *     *     *



「まだ動かないで下さい。」

沙穂が術式をかけていてくれたのだ。

(それはそうだ、章吾には術式なんて使えない)

「よぉ、大将。」

「大将は私ではありませんよ。」

「マジボケしてくれやがるな。」

神威に向け、章吾が笑う。だが、長年の付き合いである奈央には感じ取れていた。

章吾は笑っている。内に激しい怒りを燃やしながら。

「真尋を行かせた理由は?」

「中に入った所で地獄である事には変わらないですからね。

それに彼の魔具は、そこの彼女でしょう?」

神威が沙穂を指差す。

「ならば、恐れる理由は何一つない。」

「いいや、お前が恐れるべきは、すぐ目の前にあるんだぜ?」

「おや?それはおかしいですね。

どこにも見当たりませんよ?私を恐れるべき存在以外には――!!!」

「上等!!!」

章吾が『壊れた拳』を発動させる。

「生憎、こっちはテメェに返さなけりゃならないデカい借りがあるんだよ。」

「ならば、その死により踏み倒してください。」

神威の手に魔力が灯る。

「始めましょうか?

貴方の悲鳴が裁定者を呼び寄せるかもしれませんからね。」



     *     *     *

「圧が重い――!!」

自分めがけて闇の中から放たれた一撃を抑えきれず、真尋は吹き飛んだ。

闇の中から男が姿を現す。

真尋にとってそれは見たことが無い存在であった。

「お前は――何者だ。」

自分でもナンセンスな問いかけと真尋は思っていた。

だが、そう聞かざるを得ないほどのプレッシャー。

それを真尋は男から感じ取っていた。

(この私が震えている…?

冗談じゃない、この私が――!!)

真尋が立ち上がろうとするのを、男は目を細めて見据える。

その手がかすかに動いた瞬間、先ほどと同じような圧が真尋へと襲い掛かる。

『誘うは堅牢なる防壁!!』

刹那の瞬間を抜けて真尋の術式が完成する。

だが、その術式の上からでも、圧はその強さを弱める事は無い。

「教わらなかったか?」

男が再び手を動かす。

その手にあるのは魔剣。

「死に行く奴に名を名乗っても――無意味だと。」

魔剣が振るわれる。

その煌きは完膚なきまでに真尋の術式を食い破る。

「絶牙一式――黒牙」

真尋の背後の壁が崩れ落ちる。

それと同時にまた真尋の体も崩れ落ちた。

「詰まらん。実に詰まらんな。」

「ならば、楽しませてやろう。」

その言葉を紡ぐのは、男の足元で倒れている真尋の口から毀れ出る。

「制限解除だ――。」

真尋の未知の能力が少しずつ開放されていく。

「『参式(トリプルクライム)』――。」

「ほう。」

だが、男は逃げる素振りも回避する素振りも見せない。

「名前ぐらいは聞いておいてやろうか?」

「残念だが、君の流儀につき合ってやるのも紳士の務めだ。

死に行くものに名乗る名など――無い!!!」

力が解放された。

男の動きが止まる――例え、どのような強者でも『参式』が始まれば逃れることは出来ない。

真尋はゆっくりと立ち上がる。

本能では逃げるべきだと告げていた。

この男は以前の少女とは違う。

精神崩壊?錯乱?いや、その何れも起こらない。

暗闇の世界か、己の快楽の世界か。

男の口が歪む――嗤っているのだ。

「幻殺者か。お前の情報は届いてるぜ。」

男は姿が見えぬ、但しその場所にいる真尋へと叫ぶ。

「正直言って期待はずれだ。

お前如きの能力じゃ――俺の欲望は具現化し切れねぇ!!!」

「なっ――!」

男が動く。

その動きは浩介の『風の律動』を遥かに上回る。

「抑えきれないのさ、殺人衝動はな…!!!」

真尋が『参式』を解除し、防御に移るよりも早く、男が刃を煌かせる。

「ご褒美だ――絶牙二式!!!」

刃に男の力が収束される。

「死天――爆砕!!!」

振り下ろされた刃は先ほどの数十倍の圧を放ちながら、真尋へと振り下ろされた。



救出チーム 残存戦力 3名



     *     *     *


「ほう。」

神威は章吾の乱打を片手でいなしながら扉の方を伺い見た。

「今の衝撃音。

なるほど、残念ながら一名戦死ですな。」

「んな訳ねぇだろうが!!」

神威の延髄を狙い、章吾が蹴りを放つ。

それを神威は体をずらし、最低限の動きで避ける。

その際に反撃の術式を叩き込む事も忘れない。

(冗談じゃねぇ。あの時と――何もかわらねぇのかよ…!!)

「過去と未来は最高によく思える。現在の事柄は最高に悪い。――シェークスピア。」

「あの時も……同じことを抜かしてやがったな。」

「おや?始めてお会いするのでは?」

「殺した奴の顔までいちいち覚えてないってか?」

章吾が駆ける。

その突進も、既に幾十回もの間続けられ、一度も決定打をつかめていなかった。

「零番地区の悪夢を俺は一度も忘れたことはねぇ……!!」

「なるほど、生き残りがいましたねぇ……。」

神威の口が歓喜に歪む。

「私は食べ残しなどは嫌いなのですよ。

それなので、全て綺麗に片付けさせていただきますよ――貴方の死をもって。」

神威の周囲の大地が弾け飛ぶ。

それは神威が能力を解放している事の証であった。

「冥土の土産です。憶えておくといいでしょう。

『犠牲者達の悲痛の叫び(サクリファイス・ロアー)』。それが私の能力。」

「上等だ。地獄で閻魔に詫びいれさせてやるよ!!」

『壊れた拳』の力が高まっていく。

咆哮と共に章吾が走り出す。

その掌底が神威の体に突き刺さる。

「効いているとでも?」

「いんにゃ、これからが本番だ――!!!」

章吾がその手から霊子を解き放つ。

術式が使えない章吾が必死で編み出した遠距離攻撃である。

だが、その加速度を併せ持った霊子の突撃は至近距離で用いれば超高速のボディブローに等しい。

「砲裂掌――!!!」

霊子が神威の体に直に連続で叩き込まれる。

だが、神威は己が顔の余裕を崩さない。

「では、こちらからも反撃させてもらいますよ?」

神威が章吾の腕を掴む。

砲裂掌が放たれ続けているその腕を、その衝撃をまるで感じぬかのように――。

「それでは、御機嫌よう。」

その瞬間、章吾の意識は闇に包まれる。

闇の中で無数の刃が彼を貫き、痛めつける。

その数は回避することすらも章吾に許さない。

浩介がその場にいれば、何よりも驚いたことだろう。

その能力は確かに――

『覚めない悪夢』その物であったのだから。

闇が章吾を吐き出した。

その体には無数の傷が刻まれ、その瞳は生気を失いつつある。

「ご理解いただけましたか?

貴方など釈迦の掌で跳ね遊ぶ猿にすぎないのです。」

章吾は――動かなかった。




救出チーム 残存戦力 2名



     *     *     *


「オイ、ドースンダ?」

人参一番に器用にストローを刺しながら、うさひこが篠崎に話しかける。

「何のことだ?」

篠崎は冷静な態度を変容させる事なく窓の外を見ている。

その視線の遥か先に在るのは13番廃工場に他ならない。

ここは院の篠崎の部屋である。

「死ヌンジャネェノカ?全員。」

「だとすれば、人間の未来が無くなるだけだ。」

既に篠崎は沙穂から報告を受けていた。

真尋が恐らく破れたという事。

そして、神威により章吾と奈央が既に戦闘不能だという事を――。

「残るは裁定者と狂犬か。」

だが、恐らく竜崎でも勝てないだろう。

「俺ガ行ッテヤロウカ?」

「いや、その時には君に援護を要請する。」

篠崎は最悪自分が出て行かねばならないことを考えていた。

だが、それでも時は既に遅い。

自分が行くよりも早く、決着はついているだろう。

「何故、あのような少数を行かせたのですか?」

三人目の部屋の住人が篠崎に声を荒げて抗議する。

夏美である。

「それが最善と判断したまでだ。」

「嘘です。」

「何故そういいきれる。」

「壱与様を攫いに来た時点で2体の狩猟者が訪れていたのですよ?」

「確かに、敵の勢力に其れがいるのは認識していた。

だが、予定を狂わせたのはどこの誰かな?」

「まさか、貴方は……。」

「彼等には私は一言も狩猟者と交戦しろとは言っていない。

救出、それのみを考えるならば大多数の行軍は障害にしかならない。」

篠崎が夏美のほうへと振り返る。

その顔に浮かんでいるのは悲痛の表情でも、敗北を案じている顔でもない。

「お前はあの幻殺者や、うちの体力だけが取り得のバカを過小評価していないか?」



     *     *     *


「次は貴女ですよ。」

神威が沙穂のほうへと手を伸ばす。

「貴女も殺して差し上げます。裁定者はそのあとで殺せば宜しい。

もっとも、貴女の場合ですと――壊すの方が正しいのかもしれませんね。」

沙穂が後ろへと後ずさる。

それを嬉しそうに眺めると、神威が一歩ずつ間合いを詰める。

沙穂の背中が壁につくまで、それほど長い時間はかからなかった。

「それでは、予告どおり――」

「ジ・エンドだ。」

神威の体を横殴りの衝撃が吹き飛ばす。

「何――!!?」

神威は中空に浮遊しながら、体勢を整えた。

その視線の先にいるものを見て、神威は舌を打つ。

「眠い人が眠るように、瀕死の人は死を必要としているのです。

抵抗が間違いで無駄だというときが、いずれきますよ――サルバドール・ダリ」

「死神なんて裏拳一発で追い返してやるぜ。」

「生憎、私は裏拳一発程度では帰りませんよ?」

「なら、万発叩き込んでやるぜ!!」



「ほう?」

男は心底驚いたような口調で感嘆の息を漏らす。

真尋が刹那の差で死天爆砕を回避したのだ。

「生憎、ここで倒れてしまうわけには行かなくてね。

君の絶望心底痛み入る。」

「面白い、裁定者が来るまでの「繋ぎ」にはなりそうだな。」

男が魔剣を構える。

「特別に名を名乗ってやる。墓石にでも刻んでおけ。

双夜水月。断罪者だ――。」

水月が咆哮と共に走り出す。


「まだか!?」

「後3分もかからねぇぜ!!」

「というか、この祭にも近い状況何とかせんか!」

「高速と公道では制限速度が違うみたいだぜ、HAHAHA!」

「笑い事じゃねぇよ!!!」

そして、裁定者も一刻一刻と決戦の場へと近づいていた。

その背後を追う無数のパトカーとサイレン。

(感じるぜ、断罪者。

そして、壱与――必ずキミを!!)
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