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神鏡、水銀党、霧式の3人によるマルチ創作サイト

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作:雁峰とんぼさん蒼に告ぐ


――たとえ空が無くなったとしても



 - 蒼に告ぐ -



 ほんのりと温かい昼下がり。
 ぼんやり考えながら歩いていたから、かもしれない。
 ぼふんっ、と何かにぶつかった。
「……フィリス、だろ」
 苦々しげに呟いてやると、もふもふふにふにしたそれは『えへへ』と照れた様に笑う。
「びっくりした?」
「一応」
「なにそれ。もうちょっとリアクション欲しかったなーぁ?」
 ぶーっ、と彼女は不貞腐れると、そのまま彼女はゼロの胸に背中を預ける。
「普段は真面目で優しい神父様の、意外な素顔が拝めるかと思ったのに」
「残念。まだまだ修行が足りないな」
「ぶー」
 何のつもりか、彼女は『うりうりうり』とそのまま腹に頭を押し付けてきた。
 角がちょっと痛い。本気になれば人は軽く刺せるんじゃないだろうか。
 少しぞっとして、『止めろよ』と押し返そうとした次の瞬間、
「ッ痛……」
 ズキン、と両目が痛んだ。
 思わず手で抑えると、今まで思う存分ぐりぐりしていたフィリスが、顔を上げる気配が伝わってくる。
「だいじょぶ?痛むの?」
「……収まった。大丈夫」
 ゼロは、フィリスの顔があるはずの所へ笑顔を向けた。
 ――彼の目が抉られてから、早一週間が経つ。
 ゼロがかつて所属していた、『聖典の番犬』での訓練が幸いしてか、日常の生活には困っていない。
 しかし、やはり傷というものは痛むもので。
 強引に抉り取られた眼窩は、時たま鋭い痛みを訴える。
 ゼロとて人間だ。回復魔法があるとはいえ、邪神――フィリスの様に、すぐに傷が癒えるというわけではない。
「一週間、か……」
 労わる様にゼロの目を撫でていたフィリスが、ぽつりと呟いた。
「そんな経っちゃったんだ」
「……そうだな」
 思い出す。
 紅蓮の炎に揺れる帝都。
 折り重なる人々の骸。
 投げられる石。
 怒号、罵声、悲鳴。
 中心に居るのは、彼自身の大切な人達。
 ――忌まわしい記憶の中の風景と、それはあまりにも瓜二つだ。
「ゼロ」
 しかしその暗い記憶も、フィリスの明るい声にふっと吹き消された。
「覚えてる?」
「何を?」
「色々なこと」
 ……なんだろう。
 ゼロは首をひねった。
 時々フィリスはどこかすっぽ抜けたコメントをする。それは天然ボケと言うのだと教えてやったら、『そんなわけないよ!!』と全否定されたが。
 今回もそうだろうかなんて考えていたら、フィリスの顔が間近に迫る気配がした。
「ちょっ、フィリス?」
「あの、ね……ちょっと、嫌かもしれないんだけど」
 いつに無く真剣で、そして少しだけ気弱な声に、ゼロは思わず呑まれてしまった。
「どうした?」
「ゼロ、目、見えなくなったじゃない。それで、ね……」
 フィリスはそこで一拍置くと、ゼロの頬を両手で挟んだ。
「覚えてるのかな、って。教会とか、空とか、街とか、……私の、顔とか……」
 最後の方はもごもごと小さくなってしまったが、それでも言いたいことは伝わった。
 ゼロはふっと笑うと、最終的に俯いてしまったフィリスの顔にそっと触れる。
「フィリスはそんなに俺の記憶力を疑ってるのか?」
「いやっ、そんなんじゃなくてっ」
「でも、忘れるかもしれないな」
 そう言った途端、彼女ははっと顔を上げた。
 何か言おうとするのを制して、ゼロは言葉を続ける。
「見えないんだから、仕方が無いさ。でも――」
「でも?」
「忘れたくても忘れられないものって、あるだろ?」
 例えば、小さい頃の思い出。
 例えば、毎日見ている風景。
 そして例えば――
「――お前の顔とか。忘れようが無いよ。まぁ、」
 見れないのは、残念だけど。
 そう付け足してやると、フィリスは『ゼロぉ〜……』と妙になよなよした声で抱きついてきた。
「ばか。ゼロのばか」
「何でそうなるんだよ……」
「こっぱずかしいこと普通に言わないでよ、もう」
「それなりの経験は積んでるんじゃなかったのか?」
「心はいつまでも乙女なのっ。あ、いや、心も身体も見た目も乙女なのっ」
「……」
「そんな顔しないでよー!!」
 ぺしん、と軽めに殴られた。
「解ってますよ、どーせ私は世界記録更新中のおばあちゃんですっ」
「自分で言っちゃ世話無いな」
「もう!!」
 今度はゼロの頭をぐりぐりしようとしたフィリスだったが、途中で『あっ』と手を止める。
「どうした?」
「用事、思い出したの。天気良いから洗濯物干そうと思って」
 どうやらここ――教会の裏手の庭に来たのも、それが用事だったらしい。
 周りを探ってみれば、確かに壁際のほうに空気のわだかまりがある。
 それを視たゼロは溜息と共に一言、
「お前……最近物忘れとかないか?良かったら相談に――」
「ばか言ってるんじゃないの!!まだまだ現役だよ!!」
 あまり容赦の感じられない平手を頭に喰らい、『あたー』とゼロはその場にしゃがみこむ。
 女性といえども相手は邪神だ。本気を出したらダイヤモンドだって砕きかねない。
 フィリスの方はと言うと、『ふんふーん』と鼻歌を歌いながら洗濯物を持ってくる。
「快晴快晴。ゼロにも見えたら良いのにな、この蒼」
「そうだな」
「あ、今適当に流したでしょ!!」
 洗濯籠の一撃を喰らい、今度はゼロの帽子が吹っ飛んでいった。



 ――そう、たとえ空なんか無くとも。



 ◆  ◆ 後書き ◆  ◆

 すっすみませんイチャコラしてしまいました……!!(土下座)
 しかも『新説アップラおめでとうございます!!』のつもりが『Pray for you発表おめでとう』的なノリに……!!(いつの話だ)
 空気読めませんで申し訳ない。ひぃ。
 でも心は溢れんばかりにこめたつもりです!主にゼロへの愛を!!←
 リディアちゃんは後々書かせていただきたい、と思います。勉強そっちのけで。
 勝手に捏造してしまった部分もありますがそこは平にご容赦を……
 ともかく!!
 新説アップラ、完成おめでとうございます!!
 そして卒論お疲れ様でした!!

 タイトル合ってない?……それはきっと幻d(ry


 2008.弥生
 雁峰 とんぼ