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神鏡、水銀党、霧式の3人によるマルチ創作サイト

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ゲーム制作講座lecture


ハリウッド脚本式シナリオ術 〜これが俺のシナリオ技術の集大成だ!〜

「ハムちゃん! 今日という今日は、もう負けないわよ!」
「なんだ、フィリス。いきなり、どうした?」
「ふっふっふ、余裕を見せていられるのも今のうちよ。じゃじゃーん! ハムちゃんの本棚から見つけたのよ!」
「おぉ、『ハリウッド脚本術』か。よく見つけたな、それは俺のシナリオ技術のタネ本だぞ」
「あれ? あんまり驚かない?」
「そろそろ、その本から学んだノウハウ――名づけて『ハリウッド脚本式シナリオ術』を講座にしてもいい頃だと思っていたからな」
「えぇー、講座でやるつもりだったの? しょんぼり……てっきり、このノウハウは一番重要なものの一つだから、表には出さないと思ってたのに」
「重要だからこそ、出そうと思ってる。俺のシナリオ作りのノウハウの、いわばコア技術に当たるものだからな。これを伝えてこそ、心置き無く引退できる」
「え!? 引退するの? ハムちゃん」
「別に今すぐじゃない。でも、俺もいずれ引退する時が来るだろう。その時までに、このノウハウは誰かに残しておきたい……というわけで、今日はいよいよ、俺のシナリオ技術の集大成、『ハリウッド脚本式シナリオ術』についてやろうか」

 今日は、私の持つノウハウの中でもコア技術と言ってよい『ハリウッド脚本式シナリオ術』について書いてみましょう。これは、『ハリウッド脚本術 プロになるためのワークショップ101』という本の内容を下地にしたものです。この本は、タイトル通りハリウッド映画の脚本を書くシナリオライター向けの本であり、脚本を書くための技術・ノウハウが書かれたものです。本に直接書き込むようにできており、一冊仕上げると自分の中のイメージを映画の脚本のセオリーに沿って形にできる……というものになっています。著者のニール・D・ヒックス氏は、自身もハリウッド映画の脚本家であると同時に、UCLAなど大学のライターズ・プログラムの上級講師も勤めている方だそうです。やや翻訳が難解なこと、脚本の売り込みなどシナリオを書くための技術以外の内容も多いことから、そのままではゲームシナリオに直接利用するのは難しいですが、使えそうな部分を取り出し、私なりに解釈したものを今回は書こうと思います。興味のある人は、借りたり買ったりして読んでみるといいでしょう。ゲームシナリオだけでなく、小説を書く時も役に立つと思います。
 なお、このゲーム制作講座のシナリオ編には、今回のノウハウの下地になる内容が既にいくつか紹介されています。他の講座をまだ読んでいない方は、先に読んでからこの講座を読んだほうがよりよく理解できると思います。

●参考書籍
『ハリウッド脚本術 プロになるためのワークショップ101』
 ニール・D・ヒックス著/濱口幸一訳 フィルムアート社

●なぜ、ハリウッド映画の脚本術なのか?
「ハリウッド映画は、言うまでもなくアメリカの一大産業だ。『産業』である以上、それは利益を出すことを目的としている。では、映画で『利益を出す』にはどうすればいいか、というと、『多くの人が面白いと言うものを作る』ことが必要になるわけだな」
「うぅん、それが難しいんじゃない!」
「そのとおり。実際、映画も前評判などはあるが、公開されて興行収入などがわからないと、本当に当たった映画かどうか判断できない。しかし、当たるかどうかわからない、数打ちゃ当たる、という発想で映画(に限らず、どんな産業も)が一大産業になれたとは、とても思えない」
「じゃあ、なにか秘密があるってこと?」
「そう、ハリウッド映画は、『面白い』『売れる』ために徹底したセオリーの積み重ねによって作られている。どのようなものが面白いのか(売れるのか)、を分析・研究し、積み上げてきた論理が存在するわけだな」

 ハリウッド映画を見ていて、なんとなく似たようなパターンが多いな、と感じたことはないでしょうか? 例えば、なにか問題を抱えた主人公(離婚問題など)が登場し、何かの出来事をきっかけに事件や陰謀、時には世界滅亡の危機に巻き込まれ、活躍し、一度は挫折し、けれど立ち上がって事件を解決する。そして、同時に抱えていた問題も解消されて(妻や家族との絆を取り戻す、など)エンディング……こんな展開をする映画を、少なからず見たことがあると思います。
 なぜ、似たような展開をする映画が多いのか。答えは簡単、『それが面白いから』です。

「たとえば、『水戸黄門』も似たようなものだと思う。各話は、それぞれ変化を付け、趣向を凝らしているけれど、基本のパターンは類似している。にもかかわらず、俺たちは面白いと毎回見てしまう」
「同じパターンでも、面白いものは面白い……ってこと?」
「そうだ。少なくとも、俺たちがエンターテイメントとして面白いと感じるストーリーには、あるセオリーが存在している、と言える。それを徹底して突き詰めたのがハリウッド映画の脚本術、というわけだ。だから、このセオリーを学び、ゲームシナリオに活かすことができれば、面白いシナリオを作る一助になると考えられる」
「ハムちゃんのゲームは、この技術を使ってるのよね?」
「『Pray for You』の頃から使っている。もちろん、俺もその後改良を加え続けているから、全く同じものではないけれど……俺のシナリオ制作の最も根幹となる技術は、この『ハリウッド脚本式シナリオ術』だな

●ハリウッド脚本術に学ぶゲームのストーリー展開
「では、実際にハリウッド式の脚本術を応用したストーリー展開について、10の段階に分けて順を追って見ていこう。これは、『ハリウッド脚本術』の第3章『スクリーンのストーリーの要素』に述べられている内容を、俺なりに解釈・変更したものだ」

1)バック・ストーリー
 物語が始まる『以前』の出来事をバック・ストーリーといいます。これは、ゲームの時系列としてはオープニングより前の段階にある出来事となります。しかし、このバック・ストーリーの内容がオープニングより先に示される必要は必ずしもありません。

「たとえば、主人公が魔王を倒すために勇者として立ち上がる、というオープニングを考えてみよう。すると、主人公はオープニング以前から何かしていた……と考えられる」
「オープニングより前から冒険者として活動していた、とか、ただの村人として平和に過ごしていた、とか?」
「そう。主人公の背景や生い立ちも含まれる。また、主人公以外にも同様のことが言える。たとえば、魔王はそれ以前から魔王として活動していただろう。主人公を勇者に任命する王様は、オープニング以前から他の人を勇者にするなど活動していたかもしれない」
「なにか陰謀が進んでいた、とか、異変が起き始めていた、とか、いろいろ考えられそうだね。なにか歴史的な出来事も含まれるかも。このバック・ストーリーは、どうやって表現すればいいのかな?」
「作中で、昔の出来事として表現される。オープニングのナレーションかもしれないし、誰かのセリフ・説明として表現されるかもしれない。ただ、いくつか注意がある」

 バック・ストーリーを作る上での最も大切な注意は、『バック・ストーリーは、あくまで脇役』ということです。作品のメインとなるのはオープニングからの本筋の部分であり、バック・ストーリーは本筋を補強するためのものに過ぎません。時に、バック・ストーリーに力が入りすぎ、壮大な歴史や複雑な事件を作りたくなるものですが、バック・ストーリーは本筋を説明するための必要最低限にとどめるべきです。バック・ストーリーは、『本筋を楽しむために必要最低限な前提となる情報』と考えるのが良いでしょう。

「たとえば、勇者に任命されて魔王を倒しに行く、という話だったら、『平和を脅かす魔王を倒すために過去何人も勇者が任命されてきたが、ことごとく失敗した』という前提があれば、ストーリーを開始することができる。バック・ストーリーは、このように必要最低限にするように心がけるといいだろう」
「たしかに、オープニングで長々歴史のナレーションをやっちゃうとマズい気がするね……オープニング以外でも、バック・ストーリーを明らかにすることはあるの?」
「もちろん。ピンチを助けてくれた魔法剣士が『俺は何年も前から、師匠の仇である魔王四天王の一人を追っているんだ』と語れば、これで十分バック・ストーリーの説明になるだろう」
「あ、なるほど、たしかに。そういうセリフとか場面って結構あるかも。こういう時、よく回想シーンが出たりするけど、やっぱり使ったほうがいいのかな?」
「難しいな。『ハリウッド脚本術』では回想シーンを作ることは推奨されていない。観客が見ている本筋のストーリーの流れを止めてしまうし、回想シーンを挟むことによってドラマの勢いが失われてしまうから、としている。だが、これは2時間という限られた時間の制約の中で行う映画での話だ。事実上、時間の制約のないゲームでは使っても良いのではないか、と思う。もちろん、勢いがあるシーン(緩急で言うなら急)で用いるのは良くないだろう」
「回想シーンは、使うなら緩急の緩で使うのがいい、ってことだね」

2)主人公の描写:人物と内的な欲求
2と3が、作品のオープニングにあたる部分だ。ここについては、『物語の導入』の回で詳しくやったから、ここでは割愛しよう」
「登場人物の性格とか、抱えている問題について示すんだったね。それ以外に、世界観の説明もあったっけ」
「世界観については、バック・ストーリーに含まれると解釈してもいいだろうな」
「内的な欲求っていうのは、『敵と目的』の回でやったね。『絆を取り戻したい』とか、主人公の内面的な悩みや欲求のことだったね」
「そう。ただし、主人公の内的な欲求については、オープニングの段階で明確に描写する必要はない。むしろ、内的な欲求とはオープニングの段階では主人公自身も気づいていないことが大半だ。それに気づくのは、7番目の『敗北・挫折⇒自分をはっきりと示す』という場面であることが多いな。最後まで、主人公が明確に自覚せずに終わる場合も少なくない(しかし、観客は気づくように演出する)」

3)きっかけとなる事件
「ここも、『物語の導入』の回でやったな。それまで『日常』の世界にいた主人公が、『きっかけとなる事件』を通じて『非日常』の世界に巻き込まれ、困難に直面したり戦ったりする――すなわち、ドラマ・ストーリーが始まる、という部分だ」
「きっかけとなる事件によって巻き込まれたドラマを通して、主人公は変化していく……それが主人公の成長だって話だったね。意外と、前の回でやってる内容があるのね」
「というより、この部分だけ取り出して一つの講座として成立するぐらい、書く内容が多いのだ。だからこそ、前の回であらかじめやっていたわけだな」
「うぅむ、あらためて、この『ハリウッド脚本式シナリオ術』って、ハムちゃんのシナリオ技術の集大成なのね」

4)外的な目的の設定
「外的な目的についても、『敵と目的』の回でやったな」
「外的な目的っていうのは、魔王を倒して世界を救うとか、財宝を手に入れるとか、目に見える目的のことだったね」
「そう! この目的を達成することが、作品の基本的な目的になる。作品を通じて変化しない事が基本だが、長編作品など長い作品の場合は変化する事もある、ということも『敵と目的』の回で書いたな」
「この、外的な目的の設定は、やっぱり早い段階でやった方がいいのかな?」
「その通りだ。オープニングで設定するのが望ましい。たとえば、『勇者に任命されて魔王を倒して来いと言われる』とか。この場合、外的な目的は『魔王を倒してくる』ということになる。ほかにも、『謎の洋館に閉じ込められ、脱出を図る』なら、外的な目的は『生きて館を脱出する』ことになるだろう」
「なるほど、たしかに、オープニングで設定しないと、目的がないままストーリーが始まっちゃうことになる……それは、不都合だもんね」

5)準備・成長
「ここは、主人公が『外的な目的』を達成するために準備をする段階、と位置づけられている。たとえば、協力者に助けを求めるとか、道具や資金を用意する、とか」
「主人公が仲間を集めたり、クライマックスの強敵に挑むために弱い相手と戦ったり、みたいな部分だね。起承転結で言うと、『承』にあたる部分と言えそうだね」
「そのとおり。クライマックスに持っていくために、じっくりと盛り上げていく場面だ、という意識を持つことがポイントだ。『面白いシナリオとは』の回で見た、ストーリーの盛り上がりのグラフを思い出してみよう」

「そうそう、あったね、こういうグラフ。@の急展開直前まで盛り上げて、Aで急展開、Bでどん底にあって、そこからC急上昇してクライマックス、っていうグラフだったね」
「そう。この準備・成長の部分は、@より前、少しずつグラフが上がっていく部分に当たる」
「たとえば、どんなシーンが考えられるかな?」
「いくつか小さな事件を解決したり、競争相手・敵を倒したり、といったシーンが考えられる。仲間を集めたり、道具や資金を集めたりといったことも考えられるな。ほかにも、小さな成功体験を繰り返して、徐々に主人公が成長したり、自信をつけたり、仲間との絆が深まったり……ということが考えられるだろう」
「少しずつ、いい方向に変わっていくって感じかな。そっか、小さな事件を解決したり……ってところで、それ自体を起承転結の小さなエピソードにすれば、『シナリオ作りの第一歩』の回にあったみたいに、一番大枠になる起承転結の『承』の枠の中に小さな『起承転結』が入った形になるわけか」

「その通り! ……どうだ? シナリオ講座の第一回からして、この『ハリウッド脚本式シナリオ術』の回につながる伏線があったことに驚くだろう」
「本当に、ハムちゃんの基本技術なのね」

6)対立
「対立っていうのは? 『敵と目的』の回で敵の条件について書いてたけど、その敵との対立ってことでいいのかな?」
「そうだ。以前も書いたとおり、『敵』とは『主人公と(外的な)目的が対立する相手』だ。たとえば、同じ財宝を手に入れようとしている相手、生き延びようとする主人公と殺そうとしてくる相手、ある人を救おうとする主人公とそれを阻止しようとする敵……のように、主人公と敵は、同じか、もしくは相容れない目的を持っている
「どちらかの目的が達成されると、もう片方の目的は必ず失敗してしまう――だからこそ、主人公と敵は対立して、戦うことになる。そういう話だったね。この場合の『敵』っていうのは、最後の敵――ラスボスか、そうでなくてもストーリー全体を引っ張る敵ってこと?」
「そうだ。直接姿を見せることもあるだろうし、姿は見せず、部下などを使って裏から物事を操る場合もあるかもしれない。それは、自分の作るストーリーに合わせて選べばいいだろう」
「なるほど……登場するタイミングは? やっぱり、始めから登場した方がいい?」
「いや、そうとも限らない。もちろん、始めから登場していてもいいが、ある程度ストーリーが進んでから登場してもいいだろう。これも、自分のストーリーに合わせていいと思う。たとえば、『ある財宝をめぐって競争する』という話だったら、ライバルとなる相手は始めから登場しているだろう。逆に、『魔王を倒すために旅をする』という話だったら、ある程度魔物や魔王の配下を倒して、ストーリーが進んでから魔王が登場するだろうな」
「けど、どんな場合でも、その相手が最後の敵か、ずっとストーリーを引っ張る敵になるってわけだね」
「そのとおり。もう一つ、重要な点に『敵は主人公よりも強大である』ということがあったな。そうでなければ、主人公は簡単に敵を倒してしまい、ドラマにならないからだ」
「敵が主人公より強いからこそ、主人公に準備の期間が必要……とも言えるのかな」
「それは、答えの半分でしかない。準備をしただけで勝ててしまったら、本当にドラマチックなストーリーにはならないからだ。ドラマチックなストーリーにするには、次の『敗北・挫折⇒自分をはっきりと示す』というプロセスが絶対に必要だと思う」

7)敗北・挫折⇒自分をはっきりと示す
「ストーリーの盛り上がりのグラフで言えば、AおよびBの場面に相当する」

「主人公が敗北したり、挫折したりして、どん底に落とされちゃう場面だね」
「そう。『面白いシナリオとは』の回でも書いたが、物語に緩急を付け、面白いストーリーにするためには、この挫折のシーンはとても重要だ。もう一つ、お前が気づいた重要なポイントがあったな。覚えているか?」
「ええっと、こういう物語の山と谷は、物語の急展開を作るだけじゃなくて、主人公に変化を強いる……って話だよね」
「そのとおり! どん底の時こそ(これはゲームに限らず、おそらく現実でも)、人は自分自身と向き合うものだと思う。自分自身と向き合い、本当に自分が望んでいる事に気づく――この過程を経る事こそが主人公の変化であり、成長だと話したな。そして、俺たちはその主人公の成長にこそ魅せられ、『面白い』と感じるのだと」
「自分をはっきりと示す……っていうのは、どういうことなのかな?」
自分の本当の望みに気づき、『自分は○○したい』と自分の気持ちをはっきりと示すことだ。自分の立ち位置をはっきりと示す、自分の中で変化した気持ちを誰かに話す、自分の望んでいることが行動に現れる……表現の仕方は様々だろう」
「この時に、なにか注意ってあるかな?」
「原則として、この時に外的な目的が変化することは無い。だが、その目的の『主人公の中での意味づけ』は変わるかもしれない」
「と言うと?」
「『勇者になりたい』という外的な目的を持って行動しているが、その意味が『勇者になって有名になりたい』から『勇者になって魔物の襲撃をなくしたい』と変化する――というような例が考えられるな。また、描写の仕方も、主人公に『俺は変わった』と意識させない方が面白いと思う」
「主人公に、自分が変わったと意識させない……じゃあ、どうやって表現するの?」
「主人公のセリフや行動を変えよう。思い出せ、性格とセリフ・行動は密接につながっている。つまり、セリフ・行動を変化させることで、主人公の性格や考え方の変化を表現できる。セリフや行動の変化にプレイヤー・読み手が気づいて、『主人公は変わった』と感じさせることができれば上出来だろう」
「他のキャラクターに、『主人公、ちょっと変わったかも……』って言わせるのもありかもね。ハムちゃんの例だと、何があるかな?」
「『木精リトの魔王討伐記』が一番分かりやすいかな。師匠の家で、泣きながら師匠と色々話すシーンがここに当たる」
「たしかに……思いっきり、はっきりと示すようにしたほうが、わかりやすくて良いシーンになりそうだね!」

8)目的へのより一層の集中
「自分をはっきりと示し、変化を始めた主人公が次に取るべき行動は、『目的へのより一層の集中』だ。『ハリウッド脚本術』では、この場面を『オブセッション』と表記していて、obsessionの訳をそのままカタカナにしている。あまり馴染みのない単語だし、おそらく、適当な訳が見つからなかったのだろう」
「じゃあ、『目的へのより一層の集中』はハムちゃんの解釈?」
「そうだ。が、おそらく内容から推測するに間違っていないだろう。『取りつかれたように(obsession)、目的に向かって邁進する』というニュアンスだと思う」
「つまり、どういうこと?」
「一度は挫折し、折れかけたところから立ち直り、もう一度目的に向かって集中する。その時、その目的は主人公にとってより重要なものとなっており、敵との対立はより深まっているだろう。はじめは気楽な旅だったが、今はもう、絶対に譲れない……そういう考え方・立場に主人公が変化している、ということだ」
「なるほど、それで『目的へのより一層の集中』ってわけだね。……でも、主人公にとってだけなのかな? 他のキャラクターや、遊んでいるプレイヤー(読んでいる読者)にとっては?」
「良いところに気づいたな。もちろん、他のキャラクターにとっても重要度は増しているだろう。『主人公が目的を達成しなければ、実に多くのものが失われてしまうだろう』(『ハリウッド脚本術』P.33)とも言える。それは、より重要なことにプレイヤー(読者)にとっても当てはまる。この段階まで来たとき、主人公の変化や主人公が目的を達成することは、プレイヤーを含めた周囲の社会にも影響を与えるようになっている、と言える」
「どんな例があるかな?」
「たとえば、『世界を滅亡から救う主人公』なんかが分かりやすいかな。主人公が目的を達成できなければ、世界は滅んでしまう……それは、主人公やその周囲の社会にとって大きな損失と言えるだろう。同時に、それを見ているプレイヤー・読み手にとっても、主人公が世界を守れずに、世界が滅んでしまったら……とても残念な気持ちになるだろう」
「たしかに……プレイヤーが主人公と同じ視線を持ったり、主人公に共感したりしていれば、自分もなにか失ったような気持ちになりそう……世界滅亡とかじゃなくてもいいよね。たとえば、『コンテストで優勝するために頑張っている主人公』が、コンテストで優勝できなかったら……見てるこっちまで、目的を達成できなかった気持ちになりそう」
「そう。だからこそ、主人公はより一層目的に集中するし、プレイヤー・読者の目的と主人公の目的が一体化していく。それによって、プレイヤー・読者はそのストーリーを最後まで見てみたい、主人公に目的を達成してもらいたい、と思うようになるだろう

9)決戦
「主人公がより一層目的に集中し、敵との対立が深まる――そうなった時、もはや敵と主人公が戦いを避けることはできない
「決戦! ってわけだね。このとき、注意しなきゃいけないことってあるかな?」
決着は主人公の手でつけよう。ほかの人の協力を借りてもいいし、キーアイテムを使ってもいい。裏をかいてもいい。だが、どのような方法で主人公が勝つにせよ、主人公が自分の手で勝利を手にしなければいけない。そうでなければ、これまで主人公が戦ってきた意味がないし、なにより主人公の勝利を望んで、気持ちを込めて時間を使ってくれたプレイヤー・読者を拍子抜けさせてしまうだろう」
「なるほど、たしかに……どうやって、自分より強い敵に勝利するか、って点については、『敵と目的』の回で少し考えたね。それに、妥協してもいけない、ってことも書いてたね」
「そのとおり。この決戦は、『主人公と敵対者が、文字通りであれ比喩的であれ、死ぬまで闘うということである』(『ハリウッド脚本術』P.34)という点が重要だ。どちらかが倒れるまで戦う、妥協は一切ない――だからこそ、決着をつけることができる、というわけだ」

10)解決
「決着がつき、主人公の戦いが終わった段階だな。この段階で、ようやく物語の主題(テーマ)は達成されると考えられる。それは、勇者が魔王を倒したのかもしれないし、さらわれたお姫様を助けたのかもしれない。主人公が謎の館から無事に脱出したのかもしれないし、何か望みを叶えたのかもしれない」
「外的な目的を達成したってことだね。『敵と目的』の回でもあったけど、外的な目的を一見、達成してない場合もありうるよね」
「そうだな。とはいえ、一般的には外的な目的は達成しているだろうし、そうでなくても外的な目的は『解決した』、と言える状態になっているだろう。また、『内的な目的』については、満たされている(達成されている)と考えられる」
「たとえば、『離婚問題を抱えていた主人公が、事件を解決した時に奥さんと仲直りしてる』とか『誇りを取り戻している』『自分の居場所を見つけた』とか、そんな感じだね」
「そう。『外的な目的』と『内的な目的』両方が解決するのが、ようやく最後の解決の段階だと考えられる。また、それに加えて重要なのは、『主人公や主人公を取り巻く社会が変化している』という点だ」
「たしかに、自分をはっきりと示すこと、とかを通じて、主人公は変化しているし、その変化は社会やプレイヤーも変化させているんだもんね」
「そう。物語の最初と最後では、主人公は全く別人になっている。ダメ人間だった主人公が、ヒーローに変わっているかもしれない。主人公が変われば、それを取り巻く周囲も変わる。この重要な変化こそ、ドラマが描くものだと思う」
「よく、エンディングは重要なのか? みたいな議論を聞くことがあるけど、やっぱりそうなのかな?」
「ケースバイケースだろう。エンディングは、段階で言えばこの『解決』に当たる。じゃあ、『解決』が一番重要なのか、と言うとそうとも限らない。作品やテーマ(描きたい主題)によっても変わるだろう。むしろ重要なのは、この『解決』に至るまでの過程じゃないのかな」

 ここまで、10の段階を挙げてストーリーの展開について書いてきました。もちろん、この展開は絶対のものではありません。順番が変わってもいいですし、何かが無くても、あるいは何かが加わっててもいいと思います。それぞれの比重も作品によって違うでしょう。しかし、『面白いストーリー』を作るために必要な要素が、たしかにこの10の段階には含まれている、と考えられます。

「ハムちゃんの作ったゲームで言えば、どれが参考になるかな?」
「『木精リトの魔王討伐記』がわかりやすいかな。ほとんど、このシナリオ術に沿って作られている。『To Realize!』もかなり意識してこの技法を使っているから、参考にしてもらえる部分は多いと思う」


「どうだろう? 勉強になったか?」
「うん、起承転結のストーリー作りとはまた違う、ストーリー展開の作り方だからね。きっと、うまく使えれば面白いお話が作れると思う」
「一応、短編でも長編でも応用することが可能なのは、俺のゲームを遊んでもらえればわかると思う。まぁ、これが絶対の考え方ではないし、気に入った部分だけ使ってもらえればそれでいいかな。少なくとも、俺のゲームの大半がこの技法をベースにして作られている、ということは覚えておいてもらっていいと思う」
「改めて遊び直したら、新しい発見もありそうだね。よ〜し、この技を使って、頑張ってゲームを作るぞ〜!」


●今日のまとめ
1)ハリウッド映画には面白いストーリーを作るためのセオリーがある
2)そのセオリーをゲームシナリオ作りに応用できる
3)ストーリーの展開には、10の段階がある
4)著者のゲームはこの考え方をベースにしているので、また遊んでみるとなにか発見があるかもしれない