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神鏡、水銀党、霧式の3人によるマルチ創作サイト

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ゲーム制作講座lecture


シナリオ作り発展編 〜キャラクターが“勝手に動く”瞬間がある!〜

「ハムちゃん、ハムちゃ〜ん! フレーム作って、お話作ってみたよ〜!」
「おぉ、出来たかフィリス。どうだ? 自信のほどは」
「もうバッチリ! ……と言いたいところなんだけど……」
「なんだ、不満でもあるのか?」
「なんて言うのかね、もっと色々出来そうな気がするの。フレームを使って、起承転結に当てはめて作ってみたんだけど……他の人の作品を見ると、必ずしも、起承転結じゃない作り方もあるみたいだし」
「なるほど、いい視点だ。なら今回は、最初の回(『シナリオ作りの第一歩』)でやったフレーム作りを発展させた方法について、いくつか挙げてみよう」

 シナリオ作りの技法には、色々なものがあります。たとえば、伏線しかり、お話の展開の仕方しかり……そんな一つとして、『シナリオ作りの第一歩』では起承転結のフレームを使ってお話の全体枠を作る方法をご紹介しました。今回、このフレームの技法を発展させたシナリオ技法をいくつかご紹介しましょう。
 これらの技術は多くの人がやっているものだと思いますし、おそらく皆さんも、特に意識せずに自然とやっているものがあると思います。しかし、スポーツで体が自然と動くようになるまでは頭で考えながら練習をする必要があるように、これらの技法も自然に使えるようになるまでは頭で考えながら使う必要があります。それまで何気なく使っていた技法を言語化することで、新しく見えてくるものもあるでしょう。今回はそんな勉強です。

・起承転結融合型
「まず始めは、起承転結融合型だ」
「融合……というと?」
「二つの起承転結のフレームのうち、一つ目の「結」と二つ目の「起」を融合して、ひとつの大きなフレームにする技術だ。一つの起承転結が終わった後、間を置かず次の起承転結が始まる。例を挙げるとこんな感じ」

お姫様が魔物にさらわれる
お姫様を救いに行くため、旅をする
魔物が出現! 倒す!
結起 お姫様を救った……と思ったら、お姫様は偽物だった!
魔物を操っていた魔導士が本物のお姫様を連れ去っていたことが発覚する。
魔導士の塔へ向かうため、旅をする。
魔導士と対決! 倒す!
お姫様を救ってハッピーエンド

「他にも、一つの事件が解決した途端、次の事件が舞い込んでくるような作り方もある」
「事件が解決して、ホッとしたと思ったら、いきなり『大変だ!』とか言って人が駆け込んでくるみたいな?」
「そうそう、そんな感じ。二つの起承転結の間に時間的な“間(ま)”が無いんだな。これが――」

起承転結 起承転結

「と言う風に普通に二つ並んでいる場合は、二つの起承転結の間に時間的な経過が挟まる事が多い。一つの事件が解決して、次の町まで旅をして、町に入ると次の事件が起きる、みたいな」
「融合型の場合は、一つの事件が解決したら、同じ町ですぐに次の事件が始まる、って感じだね。この方法のメリットって、どんなものがあるのかな?」
「事件と事件のあいだに間が無いから、緊迫した状況や急を要する雰囲気を演出できる。次から次へと事件が起こっている印象を与えられるんだな。また、否応なく次の事件(起承転結)が始まるから、遊び手をどんどん先に引っ張っていく事も出来る」
「逆に、デメリットは?」
「次から次にストーリーが展開するから、メリハリが無くなってしまったり、遊び手が疲れてしまったりする恐れがある。何気なく作っていると、ついやってしまいがちなので気をつけよう」
「緩急で言うなら『急』だもんね……適度に使うのがいいってことか」

・連載漫画式(○○編の連続)
「連載漫画のシナリオの形式は、ゲームシナリオ、特に長編ゲームのシナリオと非常に相性がいい」
「ハムちゃんは、よくハリウッド映画式がどうのって言ってるけど、それとは違うの?」
「映画の脚本術とは違うな。脚本術は、やっぱり2時間程度の映画を製作することを想定した技術だ。ゲームで言うなら、短編を作る技術と言っていい。というより、1フレーム(もしくは、2〜3フレーム)を上手に作る技法、と言った方が正しいだろう」
「それをそのまま長編には使えないの?」
「もちろん使える。一番外側の大枠を作る技術に応用できるだろう。それに対してこの連載漫画式は、その大枠の中にたくさんの枠を作る時に使う技術と言っていいんじゃないかな」
「たくさんの枠を作る……あぁ、だから長編のゲーム向けなんだね」

 連載漫画は、○○編と銘打って連載する事が多くあります。たとえば、帝都攻略編、対ライバル戦編、闘技大会編、などなど……この○○編というのは、起承転結の一つのフレームと考えてよいでしょう。ストーリー物の連載漫画の多くは、○○編、それが終わると新章突入! 次の○○編が始まる……という、○○編の連続として構成されています。この○○編という枠組みはマンガに限らずゲームでも使いやすい手法です。

「うちのゲームの例で言えば――」

-新説-UPRISING
 観光都市編、魔法都市編、など町ごとの事件で区切る
To Realize!
 幽霊船編、聖都防衛編、など、エピソードごとに区切る

「という感じになるだろうな」
「たしかに、○○編で一個の起承転結になってるね」
「そう。とにかく使いやすい。長編ゲームを作る時は必ずと言っていいほど使うだろう」
「○○編ごとに新キャラを登場させるって事も出来そうね」
「そうだな。その後もずっとかかわるキャラも出せれば、その○○編でしか関わらないキャラ、と言うのも作れると思う」

 例を作ってみましょう。
苦労して王国の騎士になるも、初任務で失敗して左遷される
左遷村防衛編
左遷村の守備隊に回される。
魔物の大群が襲ってくる。
ピンチになった所を美少女に救われる。
魔物のボスを倒して退ける。
武具探索編
功績が認められて、伝説の武具の探索を命じられる。
王都で美少女と再会。探索の旅に美少女が無理矢理ついてくる。
伝説の武具を発見! しかし、美少女に奪われる。
美少女は敵対する帝国の姫だったのだ。武具を取り戻すため帝国へ。
帝都攻略編
暗黒の魔術で権力を握る皇帝に反抗するレジスタンスと出会う。
レジスタンスと共に帝国城へ。
美少女と再会。彼女は圧政を敷く父親を倒すため、伝説の武器を必要としていたのだ!
美少女やレジスタンスメンバーと協力して皇帝を倒す。
探索の任務を放棄したと誤解され王国からクビになるものの、あらたに皇帝に即位した美少女が
帝国の騎士として雇ってくれてハッピーエンド。

「こんな風に、○○編の連続を起承転結の大枠の中に組み込んでいく。連載漫画だと、大枠はあまり明確に作っていない場合もあるのだろうが、ゲームは作っておいた方が良いだろう」
「こうやって、起承転結に○○編って名前をつけると、内容もイメージしやすくなるね」
「そうだな。作る時の補助にもなると思う。また、マンガと違い、ゲームでは『並列』という処理が出来る」
「並列?」

 たとえば、先ほどの武具探索編を例に挙げてみましょう。

武具探索編
功績が認められて、伝説の武具の探索を命じられる。
王都で美少女と再会。探索の旅に美少女が無理矢理ついてくる。
   1:伝説の剣入手編(ダンジョン1攻略)
   2:伝説の鎧入手編(ダンジョン2攻略)
   3:伝説の盾入手編(ダンジョン3攻略)
伝説の武具を発見! しかし、美少女に奪われる。
美少女は敵対する帝国の姫だったのだ。武具を取り戻すため帝国へ。

 このとき、ゲームなら「承」の1〜3を好きな順番で攻略するような作り方をする事が出来ます(たとえば、2→3→1のように)。これをストーリーの『並列』と名付けましょう。小説や映画などゲーム以外のメディアは基本的に一本道のシナリオしか作れません。しかし、ゲームではストーリーの分岐や並列を作る事が出来ます。

「この分岐や並列という技法はゲームシナリオ特有のものだ。これを活用すると、よりゲームというメディアの特性を生かしたシナリオを作る事が出来るだろう」
「たんにダンジョンを攻略するだけじゃなくて、町や登場人物を作って、一つのちゃんとした起承転結のシナリオを並列させる事もできそうだね」
「その通り。それこそ、『伝説の鎧を手に入れるために闘技大会で優勝する闘技大会編』みたいな作りにしてもいいわけだ」
「並列のシナリオを作る時のコツってあるかな?」
「シナリオごとに特徴を作ったり、一つのシナリオをクリアするごとに仲間が増えたり(少しずつ先に進んでいる雰囲気を演出する)、といったように単調にならないような工夫をしてみるといいかもしれないな」
「ちなみに、ハムちゃんの作品で『並列』をやってる作品ってある?」
「『木精リトの魔王討伐記』の断罪武具探索編は、明らかに『並列』で作ってるぞ。見ればすぐ分かるだろう」

・クロス・ストーリー
「二つの起承転結を交差させるやりかただ。例を示す方が分かりやすいだろう」

起承 起承転結 転結

「もっとバラバラに組み合わせることも可能だろう。このように、二つの起承転結を組み合わせる方法を『クロス・ストーリー』と名付ける。やろうと思えば、3つ4つでも出来るかもしれない」
「どんな時に使うのかな?」
「一つの起承転結の中で時間経過がある場合に使うのが一つ。もうひとつは、最終的に一つに収束する複数のお話を作る場合だ」

 前者の例を作ってみましょう。

魔王退治の旅の途中、主人公とヒロインが大喧嘩する
主人公はヒロインと別れ、一人旅に。小さな村にたどり着く。
村に住む美少女と仲良くなり、村で暮らし始める。



ヒロインは魔王を倒すため旅を続ける。
美少女と暮らしてしばらく経つ(時間経過)。
二人の暮らす村が魔物に襲われる。
主人公は、魔物の脅威を失くすため、魔王を倒す必要を再確認する。
美少女に背中を押され、主人公は再び旅立つ。
主人公とヒロインが再開、仲直りする。

「どっかで見た事あるシナリオのような気が……」
「いいんだよ、俺が作ったゲームだから。とにかく、時間経過を演出するために、あえて起承転結を分断するようなやり方だな」

 後者の例を作ってみましょう。

起承転結1 連続殺人事件を追いかける刑事の物語
起承転結2 恋人を連続殺人事件で殺された少女の物語

起1 刑事、新たに発生した殺人事件の現場へ。これまでにない証拠を見つける。
起2 少女の恋人が殺される。犯人を見つけようと、少女は情報集めを始める。
承1 刑事、調査を進める。怪しい人物Aが浮かび上がってくる。
承2 少女、目撃情報から怪しい人物Bの手がかりをつかむ。刑事と出会う。
転1 刑事、怪しい人物Aの家に踏み込むも空振りする。
転2 少女、怪しい人物Bを問い詰める。Bが真犯人。襲われる少女。
転・合流 刑事、少女から聞いた話を思い出し、自分のミスに気付く。
人物Bの家へ。間一髪で少女を救い、Bを捕まえる。
連続殺人犯は捕まり、刑事は次の事件へ。少女も日常に戻る。

「ちょっと上手い例ではないが、雰囲気は掴んでもらえると思う。小説でも良く使われる手法じゃないかな。ゲームだと、いわゆる“ザッピング”システムもこれに当たると思う」
「たしかに、こんな感じのミステリー小説って読んだ事あるかも。これをやる時のコツってあるかな?」
「それぞれのストーリーを、きちんと起承転結に基づいて作ることだろう。そのうえで、それぞれのストーリーが互いにどう関わるのか作りこむ必要があると思う」

・単発イベント
「これは、難しい話ではない。起承転結の中に単発のイベントを挿入するんだな」
「たとえば?」
「なんでもいい。主人公の人物像を深めるために仲間と交流するイベントとか、敵の陰謀が進んでいく様子を描いた伏線にするとか。注目すべき点は、それが起承転結の流れとは独立した、あくまで“単発”のイベントである、ということだな。例を考えてみよう」

例1
起承転結 主人公が王様から依頼を受け、魔物退治に行く
単発:国王暗殺をたくらむ大臣や貴族たちの密談
起承転結 帰ると国王が暗殺される。主人公は暗殺犯の濡れ衣を着せられ国を追われる。

例2
起承転結
単発:ライバル登場!
起承転結
単発:ライバル登場!
起承転結 最後にライバルと決戦!

「上の例では起承転結の間に単発イベントを挟んでいるが、起承転結の途中でやってもいいだろう。たとえば、ゴブリン退治のためにゴブリンの洞窟に向かう途中、立ち寄った村の酒場で飲み会のイベントが発生する、とか。ただ、起承転結の構造上、『承』の部分でやるのが一番やりやすいだろうな」
「サブイベントみたいな感じも出来るってことだね。これは、自然と使っている人は多いかも」
「そうだろうな。しかし、自分が何気なくやっていたものも、こうしてフレームの考え方から見ると『単発イベント』という位置づけに出来るのだ、という気づきは役に立つと思う」
「この方法のメリットって何かな?」
「フレキシブルに、色々な所に挿入できることだろう。作れるイベントも多様だ。特に起承転結を意識する事も無いから、割と気軽に使う事が出来る。使い過ぎると、ごちゃごちゃになっちゃう恐れもあるけど……」
「たんに一回きりのイベントでもいいし、さっきの例みたいにライバルが何度も出てくる風に使っても面白いね。ハムちゃんのゲームだと、どんな例があるかな?」
「『To Realize!』を例に挙げれば、一回きりの単発イベントは聖都でのデートイベント、何度も出てくる単発イベントはモテール(ライバル)戦かな」

・脱線/キャラクターが勝手に動く瞬間がある
1)『キャラクターが勝手に動く』とは?
「よく『キャラクターが勝手に動く』という言い方をする事がある。作っている最中にキャラクターのセリフや行動が自然と出てきてしまい、当初予定していたものとは違うものになることを指す言葉だ」
「こういうことって、実際にあるのかしら?」
「あるんじゃないかな。俺は何回か経験があるし、けっこう色々な人がこういう風に言っている。今回は、(やや“こじつけ”の感は強いが)俺なりに、この『キャラクターが勝手に動く』ということを理論化してみよう」

 もしかしたら、これを読んでいるあなたも経験があるかもしれません。事前のプロットでは「こうしよう」と考えていたはずなのに、いざ作り始めて実際のセリフを打ち込んでいると当初考えていたのとは別のセリフが浮かんできて、そこから全く違う流れになっていく……こういう現象を『キャラクターが勝手に動く』と表現します。

「俺の例で言うと、『新説UPRISING』のラストとか(某女神の行動)、『To Realize!』のマリア編のラストとか、かな」
「ラストが多いんだね」
「そこが一つのポイントじゃないかと、俺は考えている。まぁ、シナリオ途中で勝手に動いた例もあるけど」

 こういう現象には懐疑的な人もいるようです。かと思えば、有名な作家さんが『自分の作品のキャラが勝手に動く』と言っている事もあります。とりあえず、実際に経験した事がある身としては、私は『キャラクターが勝手に動く』を肯定する側です。では、実際、コレはどういう現象なのか? ややこじつけですが、考えてみましょう。

「この現象は、その場のノリを重視している、とか、右脳が関わっているのだ、とか、色々な事が言われている。が、ここではあえて俺が考える仮説を述べよう。それは“小脳”が関わっている、という考えだ」
「小脳?」
「そう。人間の脳は大脳・間脳・中脳・小脳・延髄に分けられる。このうち小脳は運動の学習に大きく関わっている、とされる部位だ」

 たとえば、子供の頃何度も逆上がりの練習をしているうちに逆上がりが出来るようになった、という経験は多くの方が持っていると思います。あるいは、練習するうちに上手くボールが投げられるようになる、上手く泳げるようになる、などもあるでしょう。このように、運動を学習していく過程に小脳が関わるとされています。

「それが、『キャラクターが勝手に動く』と関係あるの?」
「と、俺は考えている。……と言っても、実は俺のオリジナルじゃなくてね。伊藤正男先生という方の研究を見て、思いついた」

 伊藤正男先生(現 理化学研究所脳科学総合研究センター特別顧問)と言う方は、日本の脳研究の第一人者です(シナプスの長期抑圧という、小脳について学ぶ際に必ず教わる現象を発見した方です)。この方は、いわゆる“直感”に小脳が関わると考えておられ、『直感には小脳が行う予測が重要』(理化学研究所脳科学総合研究センター ホームページ)と仮説を立てて将棋をモデルに直感と小脳の関わりを研究していらっしゃいます。具体的な研究内容はインターネットで調べればすぐに見つかりますので割愛しますが、簡単に言うと小脳が運動(身体の動かし方)の学習に関わるのと同じように、思考の上でのイメージや概念の動かし方の学習にも関わる、という仮説です。

「何度も練習をしていれば、その運動がしだいに上手く出来るようになる。同じように、何度も思考を繰り返していれば、その思考がしだいに上手く出来るようになる、というわけだな。上手くやるための思考回路が出来るようになる、と言ってもいい」
「そのモデルに将棋を使っているんだね。これは、無意識に出来るようになるって事?」
「そう。無意識と言っても哲学的な何かではなく、意識に上らなくても出来るようになる、ってことだな。たとえば、手慣れた操作って、特に『次はああして、こうして……』と考えなくても出来ちゃうだろ?」
「たしかに、そういう事ってたくさんあるかも……で、ハムちゃんは、それと『キャラクターが勝手に動く』が関係ある、と考えたわけね」
「そう。……まぁ、俺みたいなのがこういう仮説を立てるのもおこがましいから(証拠も無いし証明のしようも無いしね)、あくまで、一つの思いつきとして聞いて欲しい」

 私の思いつきは非常に単純です。
『小脳が運動を学習すると、無意識に(意識せずとも)その運動が出来るようになる』
⇒『小脳が思考を学習すると、無意識にその思考が出来るようになる(将棋がモデルの研究)』
⇒『小脳がキャラクターの動かし方を学習すると、無意識にキャラクターが動くようになる!

「だから、キャラクターが勝手に動くようになる――と俺は考えた。もちろん、小脳が直感に関わる、というのもまだ仮説の段階だから、仮説の上に成り立つ仮説だけどね」
「アイデアとしては面白いかもね」
「そうだろ? それに、この仮説に基づいて考えると、なぜ『キャラクターが勝手に動く』という現象が物語の後半やラストで起きるのかが(一応)説明できる」
「というと?」
「お話を作っていく中で、実際にその登場人物の性格や言動を作っていくな? これは、思考を繰り返すのと同じことだ。もちろん、設定を作りこんだりする作業も同様だろう。つまり、何度もそのキャラクターを動かす事によって、そのキャラクターの動きに関する経路が小脳に出来てくる……すると、その回路によってそのキャラクターがどんなセリフを言うのか、どんな行動をとるのか、自然と出力されるようになる」
「『このキャラクター(こういう性格のキャラクター)は、こんな状況に置かれた時、こんな言動をする』っていう回路が出来ると、あとは意識しなくてもその回路が働いてキャラクターのセリフや行動がでてくる、ってことだね」
「そう。この時、何度も何度もキャラクターを動かして、勝手に動くぐらい回路が出来あがるまでには時間がかかるから後半とかラストで動くようになる、と考えている。そして、小脳の回路から出力された言動が当初予定していた(つまり大脳=意識で考えていた)ものと異なる場合、『キャラクターが勝手に動く』と感じるんじゃないだろうか」
「むむむ、じゃあ、逆に言うと小脳に回路が出来ていないと『キャラクターが勝手に動く』ことはない、ってことかな?」
「そういうことだと思う。実際、俺も作ったばかりのキャラクターって、上手く動かせない。『木精リトの魔王討伐記』って作ったけど、主人公のリトだって始めのうちはきちんと動かす事が出来なかった(上手いセリフが出てこなかったり、喋り方が一定しなかったり)。中盤ぐらいまで作ったら、自然と動かせるようになった感がある」
「勝手に動く時だけじゃなくて、普段、予定通りにお話を作る時も、小脳が関わってるかもしれないんだね」
「そう。逆上がりの練習をしていると小脳の回路が出来て逆上がりが上手くなる。同様に、キャラクターも動かしていると小脳の回路が出来て上手く動かせるようになる。そして、『勝手に動く』のは、小脳の回路が出力した結果と意識で考えていたものがズレた時なのだと思う」

2)勝手に動いた時、どうするか?
「でもハムちゃん、たぶん、この講座を読んでる人の興味の多くは、現象そのものじゃなくて、その現象をいかにして使うか、あるいは実際動いちゃった時にどうするのか、ってことじゃないかな?」
「そうだな。その点に興味のある人は少なくないだろう。そして、この講座は出来るだけ実際的なノウハウの提供を目的としているから、その点についても考えてみなければなるまい」

 実際にキャラクターが勝手に動いた時、どうするか? 多くの人は
1)勝手に動くまま、キャラクターの好きに動かす
2)軌道修正して予定通りのプロットに合わせる
 のどちらかで迷うようです。

「ハムちゃんはどっち?」
「ケースバイケースだな。はっきり言って、どっちが正しいって言えないと思う。勝手に動かして面白くなるならそれでいいし、もし勝手に動いた結果お話が破たんするなら動かさない方がいいと思う」
「ハムちゃんも実際に作る時、ケースバイケースでやってる?」
「もちろん。その後のお話が続かなくなるようなら軌道修正して元のプロットに戻すし、無理に戻さなくても大丈夫ならそのままやっちゃう。実際に作ってみて、後で修正することだって少なくない」
「う〜ん、でもそれじゃあ、参考にならないよ。『この場合は自由に動かしても平気』『この場合はダメ』みたいなのを、もっときちんと判断する方法ってないかな?」
「絶対の特効薬は無いが、俺がやっている方法を紹介しよう」

 私はこの方法を“薩摩式キャラクター運用術”と呼んでいます。昔、薩摩藩で行われていた人材活用術をアレンジしたものです。幕末、当時多くの藩が殿さまを頂点とするトップダウン方式で物事を決めていたのに対して、薩摩藩では部下に大きな権限と裁量権を与えて自由に活動させる、という方法を取っていました。しかし、何もかも好き放題にさせるのではなく、上の人間が決めた大きな方針の中で自由に活動させていたのです。西郷隆盛や大久保利通が、その才能を発揮して大きな活躍をする事が出来たのは、この方法があったからだとも言われています。

「つまり……ストーリーの大きな方針からはみ出さなければ、勝手に動いてもいいって事?」
「そう。そこで、フレーム式のシナリオ術を利用してみよう」

 結論から言ってしまえば、プロットを作る時に作ったフレームの大枠からはみ出さなければ自由に行動させてもよい、ということです。究極的には、一番外側のフレームさえ変えなければ、当初予定していたエンディングにはたどり着く事が出来ます。
 この時のポイントは、実際にキャラクターが勝手に動いた後、その後どのような展開になるのか、フレーム全体を見直す事です。外枠に変化がなく、内部のフレームが変化するだけなら、キャラクターが勝手に動いた影響はその中にとどまるでしょう。フレームが一つ二つ増えたり減ったりしても構いません。外側の大枠さえ変えなければ、当初のプロットを達成する事は出来るからです。

「よく、キャラクターが勝手に動いた結果お話が破たんした、と言う人がいるが、これは外側のフレームにまで手をつけたからだろう(その人がフレーム式シナリオ術を使っていたかは不明だが……)。外側のフレームまで変えればお話の全体像が変わるのだから、俺を含めて大抵の人が破たんすると思う」
「外側のフレームを変えちゃって、エンディングにたどり着けなくなるのが破たん……っていう風にも言えるかもね」
「そうかもしれない。簡単な例を作ってみよう」

主人公が悪の魔術士を倒すため旅に出る。
魔術士退治に行く途中、美少女が魔物に襲われている。
美少女を救うと家に招待される。
美少女は敵の部下だった! 殺されかける。
美少女を返り討ちにし、改心させる。
魔術士の塔にたどり着くと、罠にはめられてピンチ!
しかし、改心した美少女が助けに来てくれる。協力して魔術士を倒す。
美少女とゴールイン。

「これを、脱線させてみよう。美少女が勝ち気な性格で、しかも武術の達人って設定にしようか」

主人公が悪の魔術士を倒すため旅に出る。
魔術士退治に行く途中、美少女が魔物に襲われている。
美少女が魔物を返り討ちにする。呆然とする主人公に美少女が怒鳴る。
「見てないで助けてよね!」
「助ける間もなく、ぶちのめしたろ!」
でも、美少女は家に招待してくれる。
美少女は敵の部下だった! 戦うが、返り討ちにあう。
結起 閉じ込められた牢の中で、美少女の両親と出会う。
二人が捕まっているため、美少女は魔術士に従わされているのだ。
両親に協力してもらい、牢を抜け出す。看守を倒し、両親を救い出す。
美少女がやってくる。戦いかけるが、無事な両親の姿を見て一転和解する。
美少女から魔術士の塔の鍵をもらう。
魔術士の塔にたどり着くと、罠にはめられてピンチ!
しかし、改心した美少女が助けに来てくれる。協力して魔術士を倒す。
美少女とゴールイン。

「魔物に襲われる美少女! ……と思ったら、美少女が勝手に動いて魔物をぶちのめした展開だ。初めから脱線させるつもりで作っているから、はたして本当に脱線したストーリーと言えるかは疑問だが……」
「まぁ、これは例だから仕方ないね。勝手に動いても、こんな風にそれを生かしながら軌道修正することもできる、ってイメージをつかんでもらえばいいんじゃないかな。……よく、脱線した結果エンディングが変わっちゃうって言う人がいるみたいだけど、この例ではエンディングは変わらなかった、って事でいいの?」
「そうとは限らない。同じ『美少女とゴールイン』でも、初めは普通にくっつくだけだったのが、脱線の結果、美少女が押し掛け女房みたいに主人公の所に来るようになる、というような変化はありうるだろう」
「でも、『美少女とゴールイン』っていう結末には変わりなく、一番外側の枠は変わらない……そこが、ポイントなわけだね」

「よし! じゃあ、新しく学んだ技術を使って、もう一度作ってみるよ!」
「その意気だ。今回は、やや雑多な内容になってしまったが、面白いと思ったもの、使えそうだと思ったものを利用してくれれば、それでいい」
「他にも色々出来る事はありそうだから、自分なりに考えてみるのも面白そうだね」



今日のまとめ
1)ストーリーの技法はスポーツと同じ。初めは頭で考えながら練習することで自然に使えるようになる。
2)『フレーム』を利用したシナリオ技法には、起承転結融合型、連載漫画式、単発イベント、クロス・ストーリーがある。
3)キャラクターが勝手に動く瞬間がある。これには小脳の働きが関わっているかもしれない。
4)キャラクターが勝手に動いた時は、フレーム式を利用して自由に動かしたり、軌道修正したりする。