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神鏡、水銀党、霧式の3人によるマルチ創作サイト

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ゲーム制作講座lecture


物語の導入 〜正直に言う。どうすりゃいいのか俺も分からん〜

「ハムちゃん、見て見て〜! 渾身のオープニングが完成したのよ〜!」
「ほぅ、オープニングか。プレイヤーさんを引きこむ大事なシーンだからな。ちゃんと気合い入れて作ったか?」
「えっへん、もちろんでしょ。まぁ、ちょっと見て驚いちゃってよ」
「どれどれ」

……
2時間経過

「あの……フィリス。まだナレーション終わんないんだけど」
「何言ってんの、まだ始まったばっかりよ。それはオープニング第一幕。あと2幕残ってるんだから」
「なんつーか、その、人の名前とか国の名前とか固有名詞が山ほど出てきて意味不明なんだが……」
「深みのある物語にしたいの。そのためには、その世界の歴史や物語の背景について、しっかりプレイヤーさんに説明した方がいいと思って」
「そうなのか……ナレーションだと、3代前の勇者が魔王と死闘を繰り広げてる所なんだが、まだ続くのか?」
「もちろんでしょ。その世界の誕生から主人公の登場まで、1000年の歴史を説明するのよ」
「そんな所まで神様スケールにならんでいい! 喝っ!」
「えー!? なにがダメなのー!?」

・オープニングの意義とは?
 オープニング、というのは、もしかしたら作品を作る中で最も悩む部分かもしれません。実際、私も一度作っても作り直し、また作っては直し……を繰り返す事も少なくありません。正直な事を言うと、私も絶対確実なオープニングの作り方は分かりません(記事書いといてなんですが)。あるいは、作品によって合う物合わない物もあるのかもしれません。今日は、分からないなりに、効果的なオープニングを考えてみましょう。

「む〜、せっかくの力作なのに……何がいけないの?」
「2時間やっても終わらないのは問題だろう、どう考えても。だが、長いオープニングを作ってしまうのは、俺もよくやることだ(というか実際にやってるゲームを出してる、UPRISINGとか)」
「じゃあ、どうすればいいのかな?」
「そもそも、オープニングの役目とは何か? これを考えてみよう」

 オープニングは何のためにあるのか? 別に哲学的な問いではなく、真剣にこれを考えなければ、効果的なオープニングを作ることはできません。私が考えるオープニングの意義――それは、『プレイヤーを物語に引き込む』ことだと思います。

「もちろん、人によって考えは違うだろうけど」
「物語に引き込む……ねぇ。つまり、遊び始めたゲームをずっと遊んでもらう、ってことかな?」
「そうだ。フリーゲームは厳しい世界で、オープニングで面白いと思ってもらえないと速攻でゴミ箱に捨てられてしまう事もある。だから、理想は数分、長くても15分ほどでお話に引き込めるといいと思う」

 フリーゲームを遊ぶ場合、大抵先入観が無い状態でゲームを始めることになります。もちろん、マニュアルや紹介ページで先入観を与える事も出来ますし、レビューサイトや口コミなども先入観を与える有力な材料にはなりえるでしょう。とはいえ、実際にゲームを遊んでみて、オープニングが面白いかどうか、という判断に勝る先入観はありません
 では、どうすれば『プレイヤーを物語に引き込む』ことができるのか?

「あらゆるメディアの中で、いかに短い時間で見る人を引き込むかを追及している物がある。――映画だ。2時間、あるいは2時間強という限られた時間しか無い中では、観客を引き込むのに割けるオープニングの時間は極めて限定されている。その短い時間の中で、映画は観客を引き込み、スクリーンで展開される映画に興味を持ってもらわなければいけない。映画を研究することで、効果的なオープニングを考える事が出来るだろう」
「ハムちゃんお得意の、ハリウッド脚本式シナリオ術ね」
「そうだ。詳しい事は別の回(おそらく最終回)でまとめるが、ここでは特にオープニングに的を絞り、オープニングで描くべきことを考えよう」

 私があれこれ並べ立てるより、『ハリウッド脚本術 プロになるためのワークショップ101』(ニール・D・ヒックス著/濱口幸一訳 フィルムアート社)という本から引用しましょう。この本は良書ですので、シナリオ技術を学びたい人にはオススメです(ちょっと翻訳に難があり、難解ではありますが)。

『我々は主人公を確立して、その登場人物に一つの問題がある事を提示する。(中略)彼ら(神鏡注:観客のこと)の実際の注意は、登場人物ではなく、その登場人物が落ち込む困難な事態の方に向けられる。その登場人物は、華麗で、公正で、尊敬に値し、あるいは少しばかり攻撃的であるかもしれないが、観客の興味を引き付けるのは、その登場人物が直面する問題である。第一幕の最も早い段階で、観客の面々が自らに「その登場人物が、この困難からどのように脱出するのか見てみたい」と思う必要がある。』(ハリウッド脚本術 プロになるためのワークショップ101 『誘因』の項より)

 ゲームシナリオの場合、観客とはプレイヤーです。登場人物は主人公(あるいはヒロインなど準主役)、第一幕の最も早い段階とはオープニングを指すと解釈して問題ないかと思います。また、映画と異なり、ゲームはいわゆる『キャラクター物』――つまり、魅力ある登場人物が力を持つことがありますので、必ずしも物語が全てであるとは言い切れません。とはいえ、やはり興味の多くは『その魅力ある登場人物が直面した困難にどう立ち向かうのか』でしょう。
 ただし、注意があります。それは映画が2時間という限られた時間の制約の中で繰り広げられるのに対し、ゲームは数時間、あるいは数十時間という時間を有していることです。むろん、制作の限界はありますが、ゲームは事実上映画のような時間の制約を有していません――この事は、長編ゲームのシナリオが映画のそれよりも連載漫画のそれに近い構造を有していることにも表れています。ですから、必ずしも映画と全く同じ手法が通じる、というわけではないと思います。たとえば、映画はその開始からほぼトップスピードに近い速度を出す必要がありますが(もちろん緩急はありますが)、ゲームでは主人公たちが穏やかな日々を過ごしながら、少しずつ過酷な状況に巻き込まれていく、という描き方が可能になります。
 しかしながら、やはりゲームと映画の導入は非常に類似しています――どちらも、主人公が困難な状況に巻き込まれる所から始まる、という点に於いて。

「わかるだろうか? これこそ、オープニングにおいてプレイヤーさんを引き付ける最大のポイントだと思う。ちなみに、ゲーム・映画に限らず、およそあらゆるメディアの導入はここに尽きると思う」
「つまり……登場人物が困難な状況――つまり、事件とかに巻き込まれて、それをいかに克服するかを期待させる、ってこと?」
「そうだ。『ハリウッド脚本術』ではこれを『きっかけとなる事件』と呼んでいる。俺もこの呼び方で呼んでいきたい。つまり、主人公は『きっかけとなる事件』を通じて物語に巻き込まれる」
「引用文の最初の部分は? 『その登場人物に一つの問題がある事を提示する』っていうのは」
「主人公は何か問題を抱えている――心の問題かもしれないし、金銭的な問題かもしれないが――ということだ。その問題が、『きっかけとなる事件』によって巻き込まれた事件を通じ、解決し、主人公は変化していく……これが主人公の成長になる。もっとも、『外的な目的』と『内的な目的』の二つがある、とされているのだが、それはまた別の回にやろう。ここで知ってもらいたいのは、問題を抱えた主人公の成長の物語――その『きっかけとなる事件』を描く事がオープニングの最大の役目だ、ということだ」

 つまり、オープニングの最大の意義とは『きっかけとなる事件』を描く事なのです。それは例えば、魔王を倒すべく勇者に任命されてしまう、雨の中怪しい屋敷にたどり着く、何か特別な依頼を受ける、不思議な道具を手に入れてしまう、幼馴染と再会する――など、色々と考えられます。しかし、そこに共通するのは、『そのきっかけとなる事件が、否応なく主人公を物語というドラマに巻き込む』ことと言えるでしょう。

「ハムちゃんのゲームだと、どんな例になるかな?」
「簡単に挙げてみようか」

-新説-UPRISING:帝国によって村が滅ぼされ、反乱を決意する。
Pray for You:ゼロ(主人公)がフィリス(ヒロイン)と出会う。
To Realize! :クロノグラス(キーアイテム)を巡る依頼が主人公に舞い込んでくる。
木精リトの魔王討伐記:勇者に任命され、魔王討伐の旅に出させられる。

「こんな感じかな。『Pray for You』みたいな、主人公とヒロインが出会って物語が始まるタイプを『ボーイ ミーツ ガール』なんて言ったりもする。『UPRISING』は主人公が事件に巻き込まれるタイプ、『To Realize!』は主人公がアウトロー的な職で、依頼を受けることから始まるタイプだな」
「こうして見ると、たしかにある事件が起きて、物語全体が動き出す、って感じがするね」
「そう。そして、この点をもう一段掘り下げると、次のように言う事が出来る」

 この時、えてして、主人公はそれまで〈日常〉の世界で暮らしています。普通の村人だったり学生だったりする人物が、『きっかけとなる事件』を通じて〈非日常〉の世界に巻き込まれ、困難に直面し、解決のために戦うことになる……という構図は、極めて一般的なものだと考えられるでしょう。

「主人公が普通の村人であるケースは、『UPRISING』かな。もちろん、普通の村人でなくともいい。冒険者のようなアウトローのような仕事をしている人物であっても、それまで普通に暮らしていた〈日常〉から『きっかけとなる事件』によって〈非日常〉に巻き込まれる、という形を作る事が出来る。『To Realize!』なんか分かりやすいだろう」
「日常⇒きっかけとなる事件⇒非日常、っていう構図なんだね。言われてみればドラマって、何かの事件とか恋の物語とか、それまでの日常とは違うものを描くものな気がする」
「そう。ドラマとは非日常を描くこと、と言ってもいいだろう」

・オープニングの他の役割
「そうすると、オープニングは『きっかけとなる事件』を描くだけでいいのかな?」
「そうとも限らない。先ほどの引用を思い出してみよう――事件の前に、何か描く必要があるよな?」
「えーっと……『その登場人物に一つの問題がある事を提示する』――わかった! つまり、登場人物について描かなきゃいけないのね?」
「その通りだ。この場合、主人公の人物像と言っていいだろう。その人がどんな職についているのか、どんな人物なのか、どんな生活をしているのか、それを端的に表現することが大事だ。先ほどの、主人公の〈日常〉がどのようなものかを伝えるためにも必要だと思う。
 あと、もうひとつ、世界観を伝えることも重要な点だ。現代を舞台にした映画だとそうでもないが、ファンタジーやSFの映画は世界観を伝えるべく腐心する事が多い」
「現代が舞台だと……必要ないの?」
「現代が舞台だと、特に説明せずともすでに観客が世界観を共有しているからな。とはいえ、何か特別な物が出てくるなら説明は必要だろう。これはゲームについても同じだ。ゲームは伝統的(?)にファンタジーを描くことが多い。いわゆる中世ファンタジーだけでなく、現代を舞台に、幽霊が出る、妖怪が出る、あるいは特殊な能力を持つ人間が出る、といったように、現代でありながらファンタジーの要素を持つことが非常に多い。
 余談だが、現実から少しずらしたファンタジーを俗にロー・ファンタジー、全く一から異世界を構築しているファンタジーをハイ・ファンタジーという(諸説あるけど)。俺の作るゲームは、どれもハイ・ファンタジーだな。あ、ロー、ハイって名前が付いているが、別に優劣があるわけではないぞ」
「どちらにせよ、登場人物と世界観の説明は必要ってことね」

 オープニングは『きっかけとなる事件』を描くだけでなく、異なる役割も負っています。それは『登場人物』と『世界観』を説明することです。
 ただ、説明と言っても注意があります。それは出来るだけ、説明と取られない形でプレイヤーに提示していく、という事です。例えば、『主人公は金に汚い奴だ』と文章で表示するより、知り合いから無理矢理貸した金を取りたてる主人公を描いた方がより強くプレイヤーに訴えかける事が出来ます。
 世界観についても同様です。世界観は複雑で、時に歴史(物語が始まるまでの世界的な時系列上の出来事)なども交える必要があるため文字での説明を余儀なくされる場合もあります。この場合、ナレーションなどを使う事になりますが、ここもくどい説明にならないよう、配慮していきたいものです。

「あと、人物や世界が複雑な作品では、往々にして『固有名詞』を多用してしまう事が多い。たとえば、俺の『UPRISING』ではいきなり何人もキャラクターが登場するが、あれはかなり多い、ギリギリ(アウト?)のところだろう。人名含め、固有名詞は覚えづらいことも多いからあまり最初から多用しない方がいいと思う」
「ハムちゃんは、なにか失敗した経験とか無いの?」
「固有名詞での失敗と言うと、ラテン語からひっぱって来た独特な名前のアイテムを大量に投入したら、『名前から効果が分からん、どれがどれだか全く不明』というお叱りを受けた事がある」
「アイテムで……」
「まして、それがオープニングのナレーションだったら? 『分からない』と思われてしまうと、それだけで投げられてしまう恐れがある」
「なにか対策ないかな?」
「固有名詞を出さないで、一般的な言葉に直すのは一つの手だろう。『ロンゴバル帝国の王子ヒポポタマス』とか出す代わりに『軍事国家の王子』とまとめてしまう、とかね」
「うーん……それが難しい時は?」
「さわりだけ出しておいて、詳しい事はゲームを進める中で少しずつ分かるようにする(情報提示のタイミングをずらす)、ナレーションやセリフで延々説明する代わりに実際にキャラクターが動くちょっとした劇にする(文字情報を視覚情報に置き換える)といった事をすると、かなり軽減されるんじゃないかな」
「なるほど」
「高等テクだが、この逆もある。プレイヤーさんに全く情報を提示しないで、とにかくいきなり動かせるようにするタイプだ。難しいが、ハマると強烈。『クロノトリガー』(スクウェア・エニックス)にしびれた人は多いはず」

・オープニングを作る時の注意
「ハムちゃん、最後に作る時の注意教えてよ」
「注意か……上で言った情報の洪水にしない、といった事が一つ。あとは、長すぎないようにする、ってことかな」
「どれぐらいが目安かな?」
「数分〜15分が目安じゃないか? ただ、これはプレイヤーさんが全く操作できない(=見ているだけの)時間だ。始めから町やダンジョンを歩き回れる場合は、あまり気にしなくても大丈夫だと思う。それに、長時間操作できない時間があっても、合間に歩いたりメニューを開いたりできるタイミングがあると、この時間のプレッシャーは意外と解消されると思う。と言っても、限界はあるけど」
「たとえば?」
「『-新説-UPRISING』を思い出してみよう。あれは、意識して町の中を歩けるタイミングをちょくちょく用意した(それでも長いけど)。あれを、一切歩く時間が無くてひたすら見るだけにしたら? 想像してみ」
「……長いね」
「だろう? 長すぎると、それはそれでプレイヤーさんも大変だ。伝えるべき情報を厳選して、コンパクトに作るのがコツだろうな」
「ハムちゃんはいっつも長いもんね〜」
「うっせ。オープニングとは難しいのだ」

今日のまとめ
1)オープニングの役目は『プレイヤーを物語に引き込む』こと。
2)物語は主人公が困難な状況に巻き込まれる所から始まる、これを『きっかけとなる事件』と呼ぶ。
3)主人公は『きっかけとなる事件』を通じて〈日常〉から〈非日常〉へと巻き込まれる。
4)オープニングは『登場人物』と『世界観』を説明することも大きな役目。
5)固有名詞の嵐にしない。説明量が多い場合は、何回かに分ける、文字でなく絵で見せるといった工夫をしよう。
6)長すぎるオープニングは作らない。長くなる時は、プレイヤーが操作できる時間を挟む。