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神鏡、水銀党、霧式の3人によるマルチ創作サイト

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ゲーム制作講座lecture


難易度論 〜智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ〜

「ハムちゃん、ハムちゃ〜ん! 体験版が出来たんだよ!」
「おぉ、すごいじゃないか、フィリス! どんなことが出来るんだ?」
「えっとね、オープニングから最初のダンジョンまで遊べるの。ちょっとやってみてよ!」
「どれどれ……」

……

「……なぁ、フィリス。このダンジョン、入った瞬間行き止まりなんだけど……」
「え? やあねぇ、ハムちゃん、それは謎解きよ?」
「謎解きも何もノーヒントなんだが……」
「良く見てよ、ほら、ここのマップチップ。少し色違うでしょ?」
「え? 別に違わないだ……んん? 微妙に明るさが……違、う?」
「ほら、違うじゃない」
「わかるか、こんな微妙な違い!」
「でも、すぐ分かっちゃったら謎解きにならないでしょ?」
「程度があるだろ、まったく……とにかく進んでみるか……」

……

「……ザコ敵、異常なほど弱いな」
「さくさく進む方がよくない?」
「でも、主人公のHP1000以上あるのに、一回のダメージで2とか3しか食らわないぞ。回復魔法使うと一発で全回復するし……」
「まぁ、ボスはやりごたえがあるから、やってみてよ」
「どれどれ………………………………………………おい、フィリス」
「なぁに?」
「今度は全然倒せないんだけど。300以上あったMP空っぽになるまで戦って、アイテムも使い果たしたけど、これ、いつ倒せるの?」
「え? MP使い切ったの? 炎の魔法使わなかった?」
「いや、強力な魔法がいいと思って氷の魔法だったんだが……」
「だめよ、それじゃ! 炎が弱点で、炎の魔法使うと50発ぐらいで倒せるのに!」
「知るか、そんなもん! しかも弱点突いて50発かよ! 難易度のバランスを考えろ!」
「うわぁ、ハムちゃんがキレた!」

 難易度の調整は難しいです。私もいまだに上手くできません。自分ではちょうどいいつもりで作っても、実際には難しい or 簡単すぎるという感想が来ることは良くありますし、おそらく多くの人が同様の経験があるでしょう。
 今回は、私も研究途上ではありますが、難易度について考え、難易度調整の方法についても考察してみましょう。

●何故、難易度の調節が難しいのか?
1)制作者とプレイヤーでは難易度の感じ方が違う
「いくつか理由が考えられる。が、最も大きい理由は『制作者とプレイヤーでは難易度の感じ方が違う』ということだろうな」
「ゲームが得意とか下手とか?」
「それもありうるが、違う。最も大きな要因は、『知らないものは難しく感じる』ことなんだと思う」

 たとえば、そのゲームを初めて遊んだ時は強いと思ったボスが、もう一度遊んだ時は同じ条件なのにアッサリ倒せるように感じることは無いでしょうか? あるいは、最初は上手くクリアできなかったゲームが、二回目以降は容易にクリアできるようになる事は無いでしょうか? 実は、これは『知らないものを理解していく』というプロセスを踏んでおり、誰にでも普遍的に生じるものです。
 これが、制作者とプレイヤーで難易度の感じ方が違ってしまう最大の理由だと思います。制作者は敵の強さ、行動パターン、弱点など基本的にはすべて理解した状態にあります。そのため、自然と最適解を選んでしまうとともに、『知っているがゆえに』簡単だと感じてしまうのです。また、そのゲームの操作やテクニックにも習熟しているのが普通です。
 ところが、プレイヤーは基本的にこれらの情報を全く知りません。そのため試行錯誤しなければいけませんし、最適解に気付かず力押しでクリア……と言った事もありえます。ゲームの遊び方に習熟していない事も十分あり得るでしょう。そして、『知らないがゆえに』相手のHPが実際よりも多いように感じたり、次の行動を予想できずに大打撃を受けたりして、難しく感じるのです。

「これは、敵の強さに限らない。各論は後で記すが、たとえば初めてのプレイヤーは同じ長さのダンジョンでも長く感じたり、謎解きが分からずに時間がかかったりする」
「それを見落としちゃうと、制作者とプレイヤーの間で感じる難易度が違っちゃうってことだね」

2)制作者の予想からずれる
「制作者は、特に長編では、『シナリオのこの段階で、主人公の強さはこれぐらい』と、主人公がどの程度の強さなのか予想して難易度を設定するのが普通だ」
「主人公のその時点でのレベルとか装備を予想して設定してるってことだね」
「そう。だが、あくまで予想だから、ずれる事は十分起きうる。……というか、ずれる。この“ずれ”が、制作者とプレイヤーが感じる難易度の違いに現れるんだろう」

 たとえば、主人公のレベルが良い例でしょう。シナリオのある時点で、主人公パーティーの平均レベルが10と予想して敵の強さを設定した場合、プレイヤーがレベル20でその時点に到達すれば簡単だと感じますし、逆にレベル5で到達すれば難しいと感じるでしょう。これは制作者とプレイヤーの間にあるプレイスタイルや考え方、ゲームの得手不得手などが誤差となって生じるものです。長編では、後半になればなるほど誤差は大きくなっていきます。後半になるほど異常に簡単になる or 異常に難しくなるという現象は、基本的にこの“ずれ(誤差)”が原因で生じるものだと言えるでしょう。

●難易度の調整はいかにするべきか
「結論を先に言おう。全ての人を満足させる難易度は無い
「無い……って、どういうこと?」
難易度というのは、あくまで主観によるものだ。だから、同じバランスで作っても、難しいと感じるか簡単と感じるかは、結局人によって違うんだな」

 たとえば、人によってゲームが得意か不得意かは違うでしょう。シューティングゲームは得意だがパズルは苦手、のように得意分野もあるものです。また、非常に簡単なゲームにすれば、ゲームが好きでゲームをやりこんでいるような、いわゆるヘビーゲーマーは『簡単すぎる』と納得してくれないでしょう。逆に難しいゲームにすれば、ヘビーゲーマーは『ちょうどいい』と感じても、ゲームが苦手な人は『難しすぎる』と投げ出してしまいます。
 また、RPGなら個々人でプレイスタイルも違うでしょう。とにかく早くクリアする事を目指す人もいれば、その時点で手に入る最強装備を手に入れてからでないと進まない、という人もいるはずです。前者はレベルが低く、装備も変えない状態で進むかもしれませんが、後者は装備を変え、そのためにお金稼ぎ等をしてレベルも高くなっている可能性があります。条件が変われば、難易度の感じ方もおのずと変わってきます

「えー!? じゃあ、適当でいいって事? それじゃダメじゃない?」
「適当じゃないって。大事なのは、どのレベルのプレイヤーに的を絞るか? ってことなんだ」

 ここで大事な事は、全ての人が満足する難易度を追求する事ではなく、どのレベルのプレイヤーをターゲットにするか、ということです。シナリオ重視で、とにかくお話を見て欲しいなら難易度は低くして敷居を下げた方がいいかもしれません。逆に、自分が高難易度ゲームが好きでヘビーユーザー向けのハードなゲームを作りたいと思ったら、とにかく高難易度に設定するのが最適解かもしれません。

「一概に言えないってことね……でも、できればゲームが苦手な人にも得意な人にも、たくさんの人に楽しんで欲しいよ。そうするための方法って何か無いの?」
「その通りだ、フィリス。そう思うのは自然だし、そういうスタイルを目指す事はとても大事だと思う。そのための方法をいくつか紹介しよう」

1)最大多数をターゲットにする
「きちんと統計を取ったわけではない。だから、証拠がある論ではない。だが、ゲームが得意かどうかで統計を取れば、おそらくその人数は正規分布(おおざっぱに言うと平均値が最も多く、平均値から離れるほど少なくなる分布)をするだろう。ということは、ゲームの得意さが平均レベルの人にターゲットを合わせれば、最大多数の人に適切な難易度にする事が出来ると考えられる」
「……って言われても、難しいよ。その“平均”が分からないから、みんな苦労するんじゃない」
「その通り。そこで、前述の論、『知らないものは難しく感じる』を考えてみよう。これは裏返せば、『知っていると難しく感じない』ということでもある。そして、制作者は『知っている』わけだな。だから、この『知っている』分のずれをあらかじめ差し引いてやればいい」
「つまり……制作者がちょっと簡単だって感じるぐらいがいいって事?」
「そう。この時も、できるだけ平均的なプレイを心掛けて、そのうえで『知っている』分を差し引こう。たとえば、『レベル上げはしない』『お金稼ぎはしない』『装備はメンバーの半分が最新の装備に変わっている状態にする』『入手する経験値やお金が増加する装備は使用しない』など、自分なりに平均的になると思われるプレイスタイルで調整しよう」

 もっとも基本的な難易度調整方法は、『制作者が少し簡単に感じる』難易度にする事です。これは、特に敵の強さなど定量的に扱える(HPや攻撃力は数字で表せますね)要素に対して有効です。たとえば、自分がちょうどよいと感じる強さの敵から、HPを減らす、攻撃力や防御力を減らす、強力な攻撃を行う確率を減らす……などが考えられます。他に、ダンジョンを少し短めにする、エンカウントの率を減らす、アイテムの入手率を増やす、といった方法も考えられます。

「ただし、謎解きの難しさなど定量的に扱う事が難しいものは、この方法だとちょっと難しい。が、ヒントを多めに配置したり、クリアできない時の救済措置を用意したりといった方法で難易度を落とすようにしておく方が良いだろう」

2)『未知であること』を無くす
「率直に言ってしまえば、攻略本を用意するんだな」
「身も蓋もないわね……」
「まぁね。だが、攻略本だけが『未知であること』を無くす方法ではない」
「たとえば?」
「戦闘中、敵のHPが分かるようにする、特別なスキルを使ったり何度も戦ったりすると敵のステータスが分かるようになる、ゲーム中で地図を手に入れるとダンジョンの構造が分かるようになる、などが考えられる。ようするに、ゲーム中に『未知』を無くす要素を入れるわけだな」

 たとえば、戦闘中、敵の現在HPがバーになって表示される、というのは比較的良く見るシステムです。現在HPが分かっていると、『あとどれぐらいで倒せるか』が分かるため、難易度を低く感じるようになります。これは、ザコ敵はHPが表示されるがボス敵は表示されない、というシステムにすると、その違いがすぐに分かります。

「ほかにも、情報屋さんから情報を買う、とか、町の人が敵の弱点を話してくれる、とか、攻略のヒントを手に入れられるようにするのも、この例かもね」
「そうそう、いいアイデア。その調子で、色々考えてみるといい」

3)難易度を変えられる
「これも、良く見るパターンだな。イージーとかハードとかナイトメアとか、ゲームの最初もしくはゲーム中に難易度を変えられるようにする方法だな」
「オーソドックスだよね。ハムちゃんも『新説UPRISING』で使ってたけど、こういうのって、やっぱり使った方がいいかな?」
「出来るだけ多くの人に楽しんでもらう方法として、十分選択肢にあがる方法だろう。やや露骨な感じはするが、プレイヤーが自分の意志で選べるのは大きい。『To Realize!』のシステムは、これに近かったかも」
「あれは、武器の組み合わせで主人公のレベルが決まるんだっけ?」
「そう。だから、強力な武器作って主人公のレベルを思いっきりあげればクリアは出来る。その代わり、あのゲームはクリア時にランク評価(Sランククリアとか)がされるようになっていて、強力な武器にすると評価が下がるようにしてある」
「その条件の中で、プレイヤーさんが自分で選べる……ってことだね。たしかに、自分で選べるって点では同じかも」

4)簡単な部分とやりこみを分ける
「たとえば、普通にクリアする分には簡単だけど、隠しマップやクリアしなくてもいいダンジョンは難しい、とか。アイテム図鑑とかモンスター図鑑みたいなコンプしなくてもクリアできるけどコレクター要素として楽しめるものがある、とか。隠しボスも、やりこみ要素の一つだろうな」
「これも、比較的よく見るかな?」
「そうだな。これをやる時のコツは、やりこみ部分にきちんとインセンティブを用意することだろう。つまり、やりこみを面白くする」
「というと?」
「クリアしなくてもいいダンジョンをクリアするとレアなアイテムが手に入る、とか。あと『To Realize!』や『木精リトの魔王討伐記』のアイテム図鑑の使い方も一つの参考にしてもらえると思う」
「んん? 普通のアイテム図鑑だったと思うけど?」
「どちらも、魔法(リトは秘石)の合成システムが存在する。それも、特定のアイテムを集めたら合成できる、というシステムではなく、好きなアイテムを混ぜ合わせると何か出来る、というシステムだ。こうやって組み合わせると、『魔法の合成』と『図鑑のコンプリート』が連動する」
「……もしかして、そのつもりで無理して二つとも搭載したの?(*注 『To Realize!』は結構苦労しました)」
「そうだよ。合成だけだと、コンプできているか分からなくなっちゃうから、図鑑のシステムは必須だと思った。『合成してるけど、どうしても図鑑のここが埋まらない!』という現象が発生すると、やりこみ要素になるだろ?」
「意外と考えてるのね」
「意外とって何だ!」

5)プレイヤーに合わせて自動で調節される
「これ、出来ない事も無いんだけど、微妙。『-新説-UPRISING』でやって、バランスがちょうどいいって評価もらえたけど、あれは特殊だった気がする」
「どうして? そもそも、これはどういう方法?」
「つまり、敵の強さやアイテムのドロップ率、行動パターンがプレイヤーの強さによって変化するようにするんだな。例えば、たくさん戦闘したり、プレイヤーのレベルが上がったりすると敵も強くなっていくシステムだ。そうすると、主人公が弱いと敵も弱くなり、逆に主人公が強いと敵も強くなって、バランスがとれるようになる」
「おぉ、なんだか理想的な方法にも聞こえるけど」
「難易度の調節だけ考えればね。その代わり、主人公が強くなると敵も強くなるって事は、レベル上げをする意味が全く無くなる。すると、ザコ戦闘が本当にただの邪魔な作業になりかねない」
「げっ! それはまずいかも……『-新説-UPRISING』はどうして上手くいったの?」
「あれは、ステージクリア型のゲームで、レベル上げって概念がそもそも無いんだよ。ザコ戦(エンカウントバトル)って概念も無い。だから上手くいったんだと思う。あと、これは予想を外した場合、手詰まりになる恐れもある」
「手詰まり?」
「つまり、簡単になるように調整がかかっても、それでも難しいと感じる人は、もう救済のしようが無いんだな。レベル上げをすると敵が強くなるから、主人公を強くして再挑戦するって事が出来ない」
「むむむ、それはまずいかも……」
「この方法を使う時は、自分のゲームのシステムやコンセプトとよく相談してみるのが大事だろうな」

6)そもそも、プレイヤーに介入させない
「もろ刃の剣だが、コンセプトによっては有効かもしれない」
「プレイヤーに介入させない……ってどういうこと?」
「レベルも装備も何もかも固定してしまうんだな。イベントによってレベルが上がったり、装備が変わったりするけど、ザコ敵と戦ってもレベルが上がらないし、装備も自由に交換できない、ってふうに」
「それは……難易度うんぬんじゃなくない?」
「一種の難易度調整法ではあるんだよ。前述の『制作者の予想からずれる』の項で言った通り、制作者が予想する状況から誤差が生じるから、難易度の調整が難しくなる。だから、プレイヤーが自由に操作できなくすれば、制作者はある時点における主人公の状態を正確に把握する事が出来るようになる。そうすれば、確実に望む難易度を実現できる」
「でも、ゲームを遊ぶっていうのは、レベルを上げたり装備を変えたりするのも楽しさのうちだよ。それを捨てちゃうのは、ちょっとなぁ……」
「その気持ちは分かる。だが、RPGというよりアドベンチャー……つまり、純粋にストーリーを楽しんでほしい場合、あえてこうするのも一つの方法だと俺は思う。また、ただの戦闘ではなくて、戦術・戦略やアイデア、謎解きによって戦闘に勝利する、というコンセプトのゲームを作るなら、この方法でもいいと思う」
「たとえば?」
「カードゲームのような戦闘とか? 俺もいいアイデアがすぐに出てこないが……カードの単純な強弱より、カードの組み合わせとか出すタイミングのような戦術が重要になるゲームなら、決まったカードしか手元に無いようにしても面白いゲームに出来るだろう。一般的なRPGの戦闘でも、限られた手段を組み合わせて、知恵をしぼって初めて勝てるような(パズル要素の強い)戦闘にするような方法が考えられると思う」

●難易度各論
「以上、難易度の調整について様々に述べてみたが、最後に各論として、難易度に関わるいくつかの要素について論じてみたい」

1)回復手段
「あまり意識しない人も多いかもしれないが、回復手段こそが難易度調整の肝(きも)と言っていい
「そんなに、すごいものなの?」
「簡単な思考実験をしてみれば、すぐ分かる」

HP 100 MP 10
通常攻撃 5ポイントのダメージを与える
攻撃魔法 消費MP 2 30ポイントのダメージを与える
回復魔法 消費MP 1 HP全回復
敵に攻撃されると10ポイントのダメージを受ける
主人公が必ず先制して行動

「こんな主人公を想定してみようか」

ケース1)通常攻撃のみ
戦闘不能になるまで、HP100 ÷ ダメージ10 = 10ターン
10ターンで与えられる総ダメージ
通常攻撃5 × 10 = 50ポイント

ケース2)出来るだけ攻撃魔法使用
戦闘不能になるまで、HP100 ÷ ダメージ10 = 10ターン
10ターンで与えられる総ダメージ
攻撃魔法30 × 5 = 150ポイント
通常攻撃5 × 5 = 25ポイント
 合計 150 + 25 = 175ポイント

ケース3)出来るだけ回復魔法使用
戦闘不能になるまで、HP100 ÷ ダメージ10 = 10ターン
 そこで、10ターン目で回復魔法を使う。ダメージを与えられるのは9ターン
2周目以降:HP90(回復したターンに1回攻撃されている) ÷ ダメージ10 = 9ターン
 9ターン目で回復魔法を使う。ダメージを与えられるのは8ターン、以下繰り返し
回復魔法を使える回数 10回
ゆえに実際に戦闘不能になるまで、9ターン + 8ターン × 10回 = 89ターン
89ターンで与えられる総ダメージ
 通常攻撃5 × 89 = 445ポイント

「うわっ、回復魔法使うと与えられるダメージがものすごい増えるよ!?」
「そうだろう。回復魔法を使えるようになると、主人公の持久力が一気に跳ね上がる。そのため、回復魔法(魔法に限らずアイテムなども)の調節をきちんと考える必要がある」
「たとえば、どうすればいいのかな?」
「回復魔法の消費MPを多めにする、回復量を少なめにする、というのは基本的な手段だ。だが、あまりやりすぎると『使えない魔法』とレッテルを貼られてしまうので、そこが難しい」
「アイテムも気をつけた方がいいよね?」
「そうだな。回復量を制限するのもあるが、所持数も制限した方がいいのかもしれない。ポーション99個とか持てちゃうと、バランス的にはちょっとどうなのか、と思わなくもない。ただ、これも制限を強くしすぎるとクリアできなくて手詰まりになったり、ストレスの原因になったりすることも考えられるので、難しい。全体的な難易度のバランスの中で考えていくしかないんじゃないかな」
「強力な回復アイテムは非売品にするとか、入手の段階で調整するのも一つの手かもね」

2)ダンジョンの長さ
「俺もよくやってしまうが、ダンジョンを長くしすぎるケースが見られる。ダンジョンは少し短めを意識して制作しよう」
「どうして? 長い方がやりごたえがあるんじゃない?」
「前述の『知らないものは難しく感じる』ことを思い出そう。制作者はダンジョンの規模を正確に把握しているが、プレイヤーはそれを知らない。制作者がちょうどいいと思う長さにすると、プレイヤーはほぼ確実に長いと感じるだろう。長いダンジョンって大変だろ?」
「たしかに……」
「地下50階ダンジョン! みたいな感じで、規模をある程度教えているなら、これは少し軽減するかもしれない。あるいは、あらかじめ地図を手に入れられるとか」
「長さだけじゃなくて、分岐にも気をつけた方がいいかもね。あんまり道が枝分かれしてると、クリアするの大変だもん」
「まぁ、これは難易度調整の話から言っているだけだから、あえて難しいダンジョンにするつもりで長いダンジョンにするのは、もちろんありだ。あるいは、ダンジョンが1つか2つしか無い短編の場合、短くするとあっという間に終わっちゃうからワザと長めにする場合もあるだろう。ケースバイケースだが、『少し短めを意識する』という点を覚えておいて欲しい」

3)『気づけば簡単』系
「たとえば、敵の弱点を突くと簡単に倒せる、とか。行動パターンが決まっていて、適切に対応すればノーダメージで倒す事も出来る、とか」
「気づくと簡単に倒せるってパターンだね」
「そう。謎解きの多くもこれに含まれるかもしれない」
「この時に注意する事って、なにかあるかな?」
「やはり『知らないものは難しく感じる』ことだと思う。敵の弱点も、プレイヤーは最初は分からないものだ。攻撃した時、効いているかいないか表示するのも一つの手段だと思うし、見た目や名前から推測できるようにヒントを用意しておくのも一つの手段だろう」
「たしかに、炎の敵が出てきたら、とりあえず氷の魔法を試すよね」
「あとは、1つのダンジョンに同じ弱点を持つ敵ばかりを配置するようなことも考えられるな。海のマップだとみんな雷に弱い、火山のマップだとみんな氷に弱い、みたいな」
「それは確かに分かりやすいかも。シリーズものの敵で設定しても面白そうだね。昆虫の形をした魔物はみんな氷に弱い、とか。……謎ときには何か注意ってある?」
「ある程度分かりやすくする必要はあるだろう。明らかに怪しげなスイッチがある、とか。くれぐれも『知らないと気づかない』ものは作らないようにな(周りの壁と全く差がないスイッチとか。別でヒントが手に入るなら別だけど)」
「隠し部屋とかは? すぐにばれたら意味無くない?」
「たしかにな。その場合、一見すれば周りの壁と変わらないが、歩いている(ダッシュしていない)状態だとうっすら透けて見えるとか、特別なアイテムを装備していると勝手に崩れるとか、対応できる手段を用意しておくといいだろう」
「ヒントを出すのもいいかもね。思わせぶりな石碑が立ってたり、アドバイスをくれる人がいたり」

4)救済措置
「クリアできない場合、あるいはパーティー内でレベル差が生じてしまうような場合、救済措置を設定するのは一つの手段だろう」
「たとえば?」
「やたら強力な武器やキャラクターを出すのが(救済措置としては)多いかな。こういう強すぎるものが出てくると、えてしてゲームバランスは崩壊するが、クリアできないプレイヤーはほとんどいなくなるだろう。自分のゲームが明らかにハードゲーマー向けの高難易度ゲームで、後半になると難しすぎてクリアできなくなる恐れがある、と自覚している人はやってみてもいいだろう」
「育て方が重要で、変に育てるとクリアできなくなる、みたいな場合もありかも。でも、これはなかなか使いづらいよ。他には無いの?」
「強力な攻撃(魔法とか)を作りつつも、コストがすごく大きいとか、使用するのに厳しい制約があるとか、簡単に使用できないようにするのは一つの手だろうな。あと、簡単にレベル上げ出来るようにするのも救済措置の一つだ(救済ってほど大きなものではないけど)」
「たとえば?」
「レベルの低いキャラクターは入手する経験値が増える、なんてのはオーソドックスな方法だな。あとは入手経験値が増える装備を作るとか、レベル上げに使いやすいダンジョンを用意する、とか。昔遊んだゲームには、最後のフリーダンジョン(自由に戦えるマップ)でザコ戦闘を何度もやると回数に応じてアイテムがもらえる、みたいなシステムを採用していたものもあったな。レベル上げのストレスを減らすいい手法だと思う」
「なるほど……本当の意味での救済措置って必要かな? つまり、もうどうしてもクリアできないプレイヤーが使うような方法って」
「ゲームによってはありじゃないか。実際、借金しこたま作ると強化人間にされてメチャクチャ強くなるゲームってあるし。ただ、前面に押し出す必要は無いんじゃないかな。どうしてもクリアできないで手詰まりになっていると発動する、とか」

5)ルールは公正・公平である必要はない
「公正なルールじゃなくていいって、どういうこと?」
「ゲームは、一般的な対戦ゲーム(スポーツや将棋・チェス、カードゲームなど)とは違い、プレイヤーが戦うのは基本的にコンピューターだ。人間VSコンピューターであれば、公正なルールを敷く必要は必ずしも無い、ということだ(対人戦ができる場合は違うけど)」
「ははぁ、たしかに一般的なRPGって、プレイヤーは一人だよね」
「そう。この場合、二種類の“不公正なルール”が存在する。『プレイヤーが有利になるルール』と『プレイヤーが不利になるルール』だ」

A)プレイヤーが不利になるルール
「先に不利になるルールから述べよう」
「そんなの、あるの?」
「ありうる。結論から言うと、ハードユーザーに対応するための苦肉の策じゃないかと俺は思ってる。たとえば、こちらの攻撃はなかなか当たらないのに、敵の攻撃は(同じ攻撃なのに)絶対命中するとしたら?」
「ううん、なんで? って思う」
「カーレースで、敵の車と接触すると自分の車は減速するのに敵の方は(それこそ物理法則を無視して)全く減速せずに走り去ったら?」
「なめんな! って思う」
「クリアできない人向けの救済措置(事実上のチート技)を敵が使ったら?」
「それはズルっしょ!」
「残念ながら、これらの例は全て市販のゲームで俺が見たことのある現象だ」
「どうして? プレイヤーが一方的に不利じゃない」
「おそらく、ハードユーザーに対応するために作ってしまうのだと思う。つまり、想定しているプレイヤーのレベルが高すぎるんだな。コンピューターのアルゴリズムでは対応できず、十分な難易度を設定できない。そのため、ルールの時点で不公正と知りつつも調節を入れるんだろう」
「どういうこと?」
「たとえば、将棋のゲームで、コンピューターがプロ棋士に勝つとそれだけでニュースになるだろ? つまり普通、プロ棋士には勝てないんだよ、コンピューターのアルゴリズムじゃ。レベルが高すぎて。この時、プロ棋士に適した難易度にするためには“駒落ち”などハンデをつけることになる。このハンデが、一般のプレイヤーから見ると“不公正なルール”に見えてしまうわけだな」
「むむむ、そうは言っても、色々不満は抱かれちゃいそう……これは、必要なのかな?」
「市販ゲームがそうであるように、高レベルのプレイヤーがいるようなゲームには必要な時もあるだろう。だが、それは一方で普通のプレイヤーがクリアできなくなるから、使いどころは気をつけた方がいいと思う」
「難易度を選べるようにして、最高難易度でだけルールが変わる……みたいに、普通のプレイヤーには適用しない方がいいのかもね」
「そうだな。私見だが、あまりに不利なルールだと、すぐに投げられちゃうと思う(実際、俺は投げた)」

B) プレイヤーが有利になるルール
「これは俺もよくやっている。たぶん、みんな気づいてないけど」
「えっ!? 何かやってるの!?」
「……お前も気づいてなかったのか。まぁ、微妙な調整だからな」
「たとえば、何をやってるの?」
「プレイヤー側の攻撃の命中率を少し高めにしてある。“ミス”が出にくいんだな。逆に、敵の攻撃は僅かに“ミス”が出やすくしてある。あと、敵の詠唱時間が少し長くなるように補正を入れたり、クリティカル率もプレイヤー側が高くなるように調整してある」
「どうして?」
「ゲームを遊んでいて、攻撃のミスが続くとイライラするだろ? 逆に敵の攻撃はかわせると気持ちがいい……クリティカルが出ると気持ちいいし、逆に痛恨の一撃を食らうとつらい」
「たしかに、たまに痛恨の一撃食らうとちょっと盛り上がるけど、何度も食らってるとイヤになってくるかも……」
「最初にも述べた通り、人間VSコンピューターであれば、公正なルールを敷く必要は必ずしも無い。こういった、人間側が有利になるような補正は、さくさくゲームを遊んでもらうためのちょっとしたコツと言えるだろうな。露骨にやりすぎるとゲームバランスがくずれるので、注意はした方がいいけれど」
「あくまで、スパイス程度ってことだね。対人戦が出来る場合は?」
「その場合は、公正なルールでなければいけない」


「なるほどー……難易度って、奥が深いんだね」
「考え始めるときりがないし、正解が無い問題ではあるけどね。知らないより、知っている方が調整はしやすいだろう」
「よーっし! こうなったら、みんなに難易度がちょうどいいって言われるゲームを作ってみせるんだから!」

後日談

「……………………おい、このボス、最初のターンで一撃で全滅するんだけど」
「えーっ!? ハムちゃん、そのボスはこの装備を全員につけてないと――」
「知るかっ、そんなもん! ちゃんとヒントを用意しろっ!」


今日のまとめ
1)難易度の調節は、『制作者とプレイヤーでは難易度の感じ方が違う』、『制作者の予想からずれる』ために難しい。
2)全ての人を満足させる難易度は無い。どのレベルのプレイヤーに的を絞るか考えよう。
3)もっとも基本的な難易度調整方法は、『制作者が少し簡単に感じる』難易度にすること。
4)調整方法には、その他に『『未知であること』を無くす』、『難易度を変えられる』、『簡単な部分とやりこみを分ける』、『こっそり調整する』、『プレイヤーに介入させない』など様々な方法がある。
5)回復手段など、難易度に関わる個々の要素にも注目する。