第二章



わたしとおねえちゃんは、二人で小さなアパートに住んでいた。

朝は二人で朝ご飯を食べて、一緒にアパートを出て駅まで歩く。

駅はわたしの通学路の途中にあって、おねえちゃんとはそこでお別れ。

わたしは改札に入っていくおねえちゃんにいってらっしゃいって手を振ってから、学校に行く。

夕方になるとおねえちゃんを駅まで迎えに行って、帰ってから一緒に夕ご飯をつくって食べる・・・・・・。

 そんな毎日が続くことが、わたしにとっては何よりも幸せで、大切なことだった。

 明日も、あさっても、その次の日も、ずっとずっと、続くと信じていた。



「うわあ〜、ねえおねえちゃん、今日はお日様が照ってて本当にいい天気だね!」

その日の朝、ランドセルを背負うなり玄関から勢い良く飛び出した藤沢桜織が、開口一番空を見上げて言ったことはそれ だった。

遅れて出てきた藤沢詩織はドアを閉めて鍵をかけると、桜織の横に並ぼうと歩き出す。

見上げるとそこには雲一つ無い澄んだ青空が広がっていて、降り注ぐ朝の陽射しに詩織は思わず目を細めてうめき声を上 げた。

「うう・・・・・・眩しい・・・・・・」

「今日もなんだか眠そうだね、おねえちゃん。大丈夫?」

例によって半睡状態のままよろよろと歩き出した詩織の長身を、桜織は慌てて支えた。

しっかり手を繋いでアパートの階段を下りると、駅へと続く道に入る。

「おねえちゃん、最近朝弱いよね」

桜織の知っている限り、ここのところ詩織は毎朝この調子だった。

朝食当番も本来は交互にやるのが原則なのだが、ここ一週間ぐらいはなし崩し的に桜織が毎日担当することになってしま っている。

もっとも詩織は自分が当番なのを忘れているわけでは決してなく、以前のように一所懸命つくろうとはするのだが、しかし殻 の混じったスクランブルエッグや炭化したトーストを食べたくない桜織が自主的に詩織のノルマを肩代わりしているというの が真相だったりもする。

「・・・・・・そーね。弱いね。眠たいね」

制帽を口に当てて欠伸を噛み殺しながら、詩織はくぐもった声を出した。

桜織にとって、ここ一週間の詩織の様子は異常事態だった。

朝は一番の早起きで、自分が寝ぼけまなこで起きてくる頃にはもう鼻歌を歌いながらキッチンに立っているのが、おねえち ゃんの本来の姿なのだ。

「ねえ、最近おねえちゃんなんか変だよ。

あ、さては夜更かししてるでしょ?だめだよ、ちゃんと眠らなきゃ!」

「ちゃんと眠ってるからさ、ノープロブレムよ」

はぐらかす詩織だが、桜織の追求の手はそこまで甘くはなかった。

「嘘言わないの!だって昨日も帰り遅かったよね?何時間寝た?」

「んー、明け方電話で起こされるまでだから、まあ三時間かな?」

困ったときの癖で、髪をかきあげながら詩織が答える。

小学生の桜織が小言をいいながら軍服姿のおねえちゃんを引っ張っている横を、通行人がくすくす笑いながら通り過ぎて 行く。

仲睦まじい二人の姉妹の話は、近所では有名だった。

「たったの三時間?それじゃ寝不足になっちゃうよおねえちゃん!」

「だいじょ〜ぶ、ナポレオンは三時間睡眠で平気だったらしいから、よゆーよゆー」

「えー、でもなぽれおんってお菓子でしょ?

おねえちゃんは人間なんだから三時間じゃ足りないよ」

「・・・・・・。そういえば桜織、歴史の授業はまだだったのよね」

そんなどこかかみ合わないやり取りをしている内に駅が見えてきて、同時に寝ぼけていた詩織の脳細胞も次第に活性化し てきたようであった。

緩んでいた頬が凛とした気品を取り戻し、焦点の定まっていなかった虚ろな目にも、いつもの理知的な光が戻ってくる。

最後にうーん、と背伸びをして、眠気を追い払うかのように頭を軽く振ると、詩織は完全に復旧した。

制帽をきちんとかぶり直し、襟を正す。

「・・・・・・これでよし、と。ごめんね桜織、心配かけちゃって。

おねえちゃん実は最近仕事が忙しくってさ。朝がちょっと辛いんだ」

そう言って優しく微笑んだ詩織は本当にいつも通りの頼りになる自慢のおねえちゃんで、桜織は内心ほっと胸をなでおろし た。

――これぞわたしの大好きなおねえちゃんだ。

「でもおねえちゃん・・・・・・無理しすぎると身体に良くないよ?」

駅の改札の前で、まだ少し不安げな様子の桜織の頭に、詩織はそっと手を置いた。

「わかってる。でもね、今はどうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ。

それさえ終わらせれば、きっとまた楽になるからさ。

だからそれまでは、今朝みたいに私がちょっとぼけぼけしてても、大目に見てもらえると嬉しいな」

桜織は今度は素直に、詩織の言葉を信じて頷いた。

詩織は言葉の通り本当に嬉しそうな顔をすると、桜織の頭をくしゃっと撫でる。

桜織は少しくすぐったそうに笑った。

「じゃあ、桜織も学校では身体に気をつけて。そして何より、お友達とは仲良く。ね?」

朝別れる時のいつもの言葉を残して桜織から離れると、改札に向かって歩き出す。その詩織の背中に、桜織はいつも通り 手を振りながら叫んだ。

「うん!おねえちゃんもみんなをまもるお仕事、がんばってね!」

詩織は一瞬立ち止まると、その日だけ何故か桜織の方を振り返らないまま片手を上げて、

「ありがとう」

それだけ言ってから去っていった。

その姿が改札の向こうの雑踏に混じって見えなくなるまで、桜織はずっと見送っていた。



職場へと向かう上り列車の比較的空いている車両で、詩織は席の端に腰掛け、駅のキオスクで買った朝刊に目を通してい た。

その横には中年の主婦が二人、99円ストアの買い物袋で四人分の座席を占領して、近所の噂話や何やらで盛り上がって いる。

「――でさあ、聞いてよひどい話なんだから!

それがね、お隣の酒井さんがナスの糠漬けをガニメデの従姉妹の家に宅配便で送ろうと思ってね、昨日コンビニに行った らしいのよお。

そーしたらね、連絡船のダイヤが乱れていて、届くのがいつになるのかわかりませんって言われたんですって!」

「んまあ!近頃のコンビニは一体どうなってるんざますの!」

「でしょでしょ?それがさあ、娘のピアノの先生のお兄さんの知り合いが港の役場に務めてるんだけど、その人の話による と、最近ここの港にやってくる連絡船の便数がどんどん減ってるらしいのよ!」

「んまあ!近頃の船は一体どうなってるんざますの!」

他人から伝え聞いた話の信憑性を確かめるどころか、恐らく誇張しているであろう主婦Aと、それに対しひたすら『んま あ!』を連発するだけの主婦Bの会話を傍聴しながら、話の流れがきな臭くなってきたなと詩織が思っていると、主婦Aは 急に声を落として、

「・・・・・・ねえ、ひょっとしてさあ、これってあのれぎおんとかいう宇宙人のせいじゃありません?」

「んまあ!近頃の宇宙人は・・・・・・」

「斜め向かいの田島さんの一家なんかね、さっき会ったら内地に疎開したいって不動産屋に相談に行った帰りだったの よ。

でもどこの不動産屋も今閉店してるんですって!」

「んまあ!近頃の不動産屋は・・・・・・」

「それにしてもゆうべのニュース、思い出しただけでぞっとするわぁ。

ねえねえ、もうじきこの街にも宇宙人が攻めてくるかもしれないわよ!」

「んまあ!」

『まもなく、丸壱陣、丸壱陣でございます。JR線、地下鉄榊原線は、お乗換えです』

もはやお約束である感嘆句の後に続くはずだった『近頃』の何かへの批判はアナウンスによって遮られ、お次はなんだと 楽しみに聞いていた客の何人かが残念そうな顔になった。

駅に近付いた列車が緩やかに減速を始め、詩織は朝刊から顔を上げた。

すっかりしわだらけになってしまったペーパーディスプレイを、くしゃくしゃと音を立ててたたむ。

二人の主婦はその音で初めて、横の席に座っている詩織に気付いた。

下町根性剥き出しの無遠慮な視線が、右肩から下がった金色の参謀飾緒と肩章とを除いて、詰襟の上着から靴のつま先 まで真っ白な詩織の制服に注がれる。

詩織は朝刊をたたむ手を休め、ため息をつくと、笑みを浮かべていった。

「・・・・・・ご安心下さい。戦線は遥か遠方――そしてじき我々の勝利に終わります。

この街は安全ですよ」

桜織の前では決して浮かべることのない、機械的な冷たい微笑だった。

その静かな迫力に気圧されて何も言葉が返せない主婦たちを後目に詩織が席を立ったのと、列車が駅に滑り込んだの は、ほとんど同時だった。

ドアが開き、詩織がホームに降り立つと、主婦たちは早速今出会った若い女性将校についての批評を開始する。

出口を目指して歩いていく詩織の耳にまで主婦Bの『んまあ!』がはっきりと聞こえ、続いてぷしゅーと空気が抜けるような 音とともにドアが閉まり、列車は次第に速度を上げながら遠ざかっていった。



駅を出た詩織が向かった先には、窓が小さくて柱は太い、堅牢な建物がそびえていた。

正門で歩哨に立つ警備隊陸警班の三曹が、歩いてくる詩織に敬礼する。

「おはようございます、藤沢一尉殿」

「おはよう」

手の甲を表にし、肘を横に張らない宇宙軍式で軽く答礼する。

そのまま立ち去ろうとした藤沢詩織一等宙尉は、門の前でふと足を止めた。

空を見上げる。

出掛けに聞いた桜織の無邪気な言葉が、今更ながら脳裏をよぎった。

「今日はいい天気ね」

「・・・・・・は?」

上官の予期せぬ言葉に、陸警班員は一瞬だけ訝しげな表情を浮かべた。

それでも日頃から訓練がゆきとどいているためだろう、すぐに顔を引き締め、直立不動の体勢で応答する。

「はっ!本日は快晴であります!」

にきびだらけの若い下士官のきまじめな返事に、詩織は空を見上げたまま苦笑した。

自分の言葉に彼が一瞬戸惑った理由を、彼女も知っていたからだ。

そう――今自分たちが見上げているのは空ではない。

この球殻都市の、巨大なドームの内壁に投影されたホログラフィー、いわば人の目を欺く偽物の空だ。

この都市に暮らしている人々が、遠く離れた故郷の風景を忘れてしまわないために施された、数多くある工夫の一つだっ た。

見渡せば緑があふれ、小鳥がさえずり、運河が流れる、地球のそれと全く同様の風景。

だが厚さ約一〇〇mの合金製フレームに守られ、重力発生のために常に高速で回転し続けているこの都市から一歩外に 出れば、そこには分厚い雲に閉ざされ、メタンの海に覆われた荒涼とした死の世界が広がっているのだ。

そう。ここは、地球ではない。


二二〇五年 十一月二十六日

土星圏 日本国信託統治衛星タイタン 氷室市  航宙自衛軍 土星防衛隊総監部


――大昔の粘土アニメに出てくる悪役みたいだ。

スクリーンに投影された米国宇宙軍外太陽系艦隊司令官ヘイリー大将を見て、藤沢詩織が最初に感じた率直な印象はそ れだった。

あちこちで中継ステーションが破壊されているからだろうか、米宇宙戦艦イリノイからリアルタイムの超光速通信で送られてく る彼の立体画像は通常より不鮮明で動きもぎこちなく、その表情はひどく歪んで見えた。

『・・・・・・極めて遺憾ながら、ビゼルト宇宙要塞の陥落は厳然たる事実だ。

〈レギオン〉による侵攻の規模とスピードは我々の予測を遥かに上回るものだ。

同要塞の守備にあたっていた第六海兵師団については、師団長ファルケンバーグ少将以下、一万六千名全員が戦死し たとの報告をペンタゴンより受けている』

 総監部ビル地下七階オペレーション・ルームの横に位置し、〈作業室〉と呼ばれる小会議室に集められた各部門の主任 幕僚たちは、スクリーンを凝視したまま水を打ったように静まり返っていた。

冥王星防衛戦準備のためカイパーベルトまで進出し、前線の情報収集活動にあたっていた航宙自衛軍第十一艦隊の作 戦情報支援隊から〈レギオン〉急襲の報を受けたのが今から一週間ほど前のこと。

その日から、二十五歳の若さで航宙主任幕僚を務める詩織を始め、土星防衛隊総監部の幕僚たちは指揮下にある全部 隊に緊急呼集をかけて臨戦態勢を整えると同時に、第一種非常勤務態勢レベルで連日連夜、あらゆる状況に即した細密 なタイタン防衛作戦の策定に追われてきた。

そしてこの日、彼等の前に映るこの合衆国軍人は、状況が彼等の想定していた中でも最悪のものとなってしまったことを告 げていた。

それにしても、ヘイリー大将が『ペンタゴン』を持ち出すのは、通信が始まってから詩織が数えただけでもこれでもう七回目 だ。

火星木星間にあるアステロイドベルトから外縁のオールトの雲にかけて展開する米軍の全オペレーションを実質的に統轄 している筈の自分よりも、遥か九兆四六〇〇億qも離れたワシントンDCの住人の方が最前線の状況を正確に把握してい るという事実を、この最高指揮官は何ら恥じていない様子であった。

地方防衛隊の幹部には珍しい地球本国の防衛大出で、何事にも動じない冷静沈着さで知られる情報幕僚の黒田二佐が 密かに嘆息したのを、詩織は見逃さなかった。

『〈レギオン〉の大群は確認された第一波だけでも実に十七方面からオールトの雲に侵入しており、迎撃した我が軍も多数 の艦艇を失った。

国連宙管委が定めた共同防衛規定には〈レギオン〉を外縁のオールトの雲で食い止めて持久戦に持ちこみ、太陽系への 侵入を断固阻止すべしとあるが、各要塞が孤立した現状ではその完遂は絶望的だ。

実現不可能な作戦で貴重な宇宙戦力をこれ以上損耗させるべきではない。これはペンタゴンの意向である』

ヘイリー大将の不穏な発言を聞いて、居並ぶ幕僚たちの間にざわめきが走った。

そもそもこの時期の米宇宙軍トップからの急な連絡に嫌な予感がしていたのは、どの幕僚も皆同じだったのだ。

大将が次に何を言おうとしているのかを悟って、詩織は無言で唇を噛んだ。

動揺を隠せずにいる日本人たちを愉快げに一瞥して、ヘイリー大将は続けた。

『シャンデルナゴルの欧州連合軍は要塞を死守するつもりのようだが、長くは保つまい。ルテチアとケルゲレンが陥ちるの も時間の問題だ。

絶対防衛圏が破られた今、各個撃破されるリスクを冒してまで戦力を分散させ、太陽系外縁に長大な戦線を維持しつづけ るのは得策ではないと判断した。

従ってこれより外太陽系艦隊は現在セドナにおいている総司令部をカリストのコルドバ基地に移転し、今後一週間で防衛 ラインを木星圏まで後退させる』

幕僚たちは一瞬呆然とし、続いて騒然となった。

ヘイリーの言ったことが、タイタンに暮らす日本人への実質的な死刑宣告に等しかったからだ。

何人かの若手幕僚が慌ててヘイリーに食ってかかった。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。

土星圏以遠の宙域にはこのタイタンを始め六十の衛星植民都市と百五十基以上のスペースコロニーが存在し、一部で避 難が始まっているとはいえ未だに二十五ヶ国民四十七億人もの住民が在留しているんですよ!?

今米軍がオールトの防衛線を放棄して撤退すれば、これらの都市はすべからく〈レギオン〉の勢力圏に取り残されてしまい ます!

米軍は我々を見殺しにされるおつもりですか!?」

「そもそも強引な外宇宙進出をやってファーストコンタクトを引き起こしたのは、アメリカではありませんか!

アメリカには〈レギオン〉の侵略を招いた責任があるはずだ」

感情を顕わにした日本側の抗議に、しかしヘイリーは口元を吊り上げて冷笑するだけで、いささかもたじろいだ様子は見 せない。

元よりこうした抵抗は予想の範疇なのだろう。

『人聞きの悪いことを言うのは止めてもらおうか。

タイタンは日本の信託統治領だろう。

我が米州連合宇宙軍には、他国の星まで防衛する余裕など無いし義務も無いのだよ。

日本人が管理する星は、日本人の手で守りたまえ』

あまりに冷酷で突き放した物言いに、先ほど激していた若手幕僚たちは青ざめて言葉を失う。

一方で黒田二佐は顔色一つ変えることなく、ヘイリーに対し冷静に反論した。

「ですが閣下、開戦時に国連総会で採択された人類同盟条約を、米国も批准しているはずです。

加盟各国への軍事援助の一方的放棄と単独での撤退は、国連宇宙軍の連帯を謳った同条約第三条、並びに各国軍の 担当宙域における防衛及び相互援助等の義務を定めた同条約第十九条に抵触する恐れがありますが?」

条約違反の可能性を理路整然と指摘されてもなお、ヘイリーは動じなかった。

そんな些末な問題など取るに足らないといわんばかりに、やれやれと肩をすくめて見せる。

『君は条約を額面通りに解釈するしか能がないのか?

シリウス戦役で大敗を喫して以降、国連軍は組織的に機能していない。

テルモピレー精神は既に過去のものだよ。

国連宇宙軍の連帯という大前提が崩れている以上、十九条が効力を持たないことは誰の目にも明らかだろう?

こうして貴軍に誠意ある事前通告をしているのは、我が国が先のプラハ協定に則って行動しているからで、むしろ協定の遵 守について感謝されることはあっても、非難を受けるいわれなど我が国には全く無い。

それとも何かね、ニューヨークの慈善家連中に、我が国に理不尽な犠牲を払えと命ずる権利があるとでもいうのかね?』

嘲るような物言いを続けるヘイリーにうんざりしてスクリーンから視線を下ろした詩織は、総監部主席幕僚の加藤宙将補が 憤怒の形相でスクリーンを睨み付けていることに気がつき、慌てて目を逸らした。

改めて観察すると、杖代わりに床についた軍刀を握る手が小刻みに震え、太い眉毛がぴくぴくと上下している。

それが元々激昂しやすい性格である彼がキレる前兆なのだということは、総監部に勤務する人間なら誰でも知っていた。 異変を察知した黒田二佐が止めようとした時には、もう手遅れだった。

「おっしゃることの意味がわかりませんな。

人類の必勝を信じて散っていった戦死者の霊を汚し、太陽系絶対防衛貫徹の精神を踏み躙るような敵前逃亡など、我が 日本国は断じて容認できません!

にもかかわらずそちらが詭弁を弄してあくまでも単独で撤退されるというのであれば、我々は事の次第を本国防衛省に報 告し、外務省を経由して国連委員会の場で厳重に抗議させて頂く。

明らかな条約違反行為ともなれば、EUとロシアも当然黙ってはおりますまい。これは国際問題になりますぞ、ヘイリー大 将!」

加藤宙将補の怒号が〈作業室〉に轟いた。

自動通訳装置が機能して、宙将補の発言が英語化されるのを待つまでもなかった。

それまでいかなる抗議にも余裕を失わなかったアングロサクソンの白い顔が、怒りでどす黒く染まるのが、歪んだ立体画像 でもはっきりとわかった。

ヘイリーが通信機のスイッチに手を伸ばすのが見え、そして――。

『・・・・・・君達は何か誤解しているようだが、私は我が軍の決定事項を貴軍へ通告しているのであって、我が軍の作戦行動 について貴軍と議論がしたいのではない。

そちらの用件がそれだけなら、この話はもう終わりだ』

ぶちん、という旧世紀のテレビの電源を切ったかのような嫌な音が響き、米国宇宙軍外太陽系艦隊司令官の立体画像は 掻き消えた。

何も映さなくなったスクリーンに、‐Connection Failed‐という文字だけが明滅する。

 〈作業室〉に気まずい沈黙が漂った。

「米軍の腰抜けが!全滅した海兵隊の弔い合戦もせずに、尻尾を巻いて逃げ出すとはな!人類の風上にも置けんわ!」

ややあって加藤宙将補が吐き捨て、誰かがため息をついた。

黒田二佐は手元のコンピュータを無言で暫く操作していたが、やがて静かに首を振った。

「・・・・・・ただの腰抜けならまだよかったのですが」

「どういうことかね、黒田君?」

恐らくこの場で最も戦況を正確に把握しているであろう情報主任幕僚の思わせぶりな一言に、一同の注目が集まる。

いささかの気取りも気負いも感じさせない声で、黒田二佐はよどみなく答えた。

「先ほどの超光速通信ですが、解像度が低かったのは電波障害などではありません。

先方が発信元の逆探知を防ぐために電波を一部暗号化した上、第三国の中継ステーションまで経由していたからです。

そうまでして本当の居場所を隠したいわけですよ・・・・・・ご覧下さい」

黒田二佐の操作で、先ほどまでヘイリーを映していた正面のメインスクリーンに、太陽系外縁から木星軌道までの広域宙 図が投影される。

宙図上には航宙自衛軍第十一艦隊の作戦情報支援隊から一日おきに送られてくる米国宇宙軍艦隊の最新の配置状況 が、青い輝点で表示されていた。

散在する青い輝点の位置を見る限りだと、米国宇宙軍は少なくとも今の段階では内オールトのセドナ基地に主力を置き、 そこを中間点にオールトの雲とカイパーベルトに二段構えで艦隊を展開して、防衛線を張っているように見える。ヘイリー の言の通りだ。

「こちらは第十一支援隊のレーダーサイトで確認している米国宇宙軍の配置状況で、皆様既にご存知かと思います。

しかしこの情報には米国宇宙軍の指揮通信系統の把握が伴っておらず、その点においてこれは信頼に足る情報とは言え ません。

そこで先ほどの通信が価値を持ってくるわけです」

黒田二佐の説明に、通信関連の知識がある何人かの幕僚が顔色を変えた。

各国宇宙軍が使用する軍事無線通信は通常だと盗聴・電子妨害を防止するための従来のSFHS(スーパー・フリークウェ ンシー・ホッピング・システム)にHCS(ハイパー・クローキング・システム)による強固なステルス機能が組み合わされてお り、傍受できても発信源を特定するのは難しいのが現状だ。

それに引き換え近年急速に普及している超光速通信は、ドップラー効果やタイムラグの修正を必要としない高精度の通信 が可能であるという利点を持つ一方で、ワープ・ドライブ発動時と同様の強力な空間制御に伴って発生する電磁波によっ て発信源を特定されやすいという、高度な隠密性が求められる現代戦では命取りともなりかねない弱点を有している。

このため多くの国が超光速通信を軍用には適さないと判断していたが、その利便性を重視した米国宇宙軍はむしろ積極 的に超光速通信を使用していた。

勿論米軍もこの問題に無思慮だったわけではなく、緩衝装置を開発して電磁波の発生を抑制するなどの対策を施しては いたが、それでも微弱な電磁波が探知されるのを妨げることはできない。

「作戦行動中の米外太陽系艦隊は他国軍に位置を知られないためにHCSに加えて無線封鎖を行っており、これまで正 確な捕捉が困難でしたが、今回の超光速通信をレダ、ヒマリア、パシテーの電波傍受基地からトレースし、欺瞞工作を解除 した上で三角法原理の演算で発信源方位を解析、特定しますと、結果は次のようになります。

・・・・・・ちなみにこれは市ヶ谷の情報本部電波第三課が把握している情報とほぼ同じものですので、第十一支援隊からの 報告よりも信頼性は高いかと思われます」

黒田二佐が説明の終わりに控えめに付け加えた言葉に、詩織は耳を疑った。

防衛省情報本部は統合幕僚会議直属のコミント機関であり、その配下の電波傍受基地から送られてくる情報は本来は自 衛軍の最高軍事機密で、新参者として組織の中で立場の低い宙自の、それも末端の地方防衛隊に籍を置く情報幕僚が 容易く閲覧できるようなものではないはずだ。

防衛大時代から密かに築いてきた、中央の情報部門の人間たちとの独自のコネクションを持つ黒田二佐だからこそできる 芸当だった。

 黒田二佐はこうした非常時にでもならない限り、彼個人の秘められた真の情報収集能力を決して表に出そうとはしない。

絶対に敵にまわしたくない男だなと、詩織は改めてそう思った。

 詩織と同様に黒田二佐の謎めいた底知れなさに驚愕していた幕僚たちは、しかし次の瞬間全く別のことで驚愕させられ ることになった。

宙図上に、ベアリングと呼ばれる三本の直線が三方向から出現し、ある一点の座標で交

差する。

これまでの青色の輝点とは別に、黄色く識別されたそれの位置は――。

「・・・・・・海王星トリトン補給基地近傍だと!?」

「ば、馬鹿な!イリノイはまだセドナにいるはずじゃなかったのか?

これから退却するはずの艦隊旗艦が、もう海王星にいるとは一体どうなっとるんだ!」

部屋のあちこちから驚きと当惑の声が上がる。

混乱する幕僚たちの間に、嘲りを含んだ冷ややかな声が割って入った。

「何を騒いでいるのですか、君たちは。考えずとも答えは明白じゃありませんか。

我々は騙されていたのですよ、アメリカに」

総監部内でも筋金入りの反米派として若い将校たちに人気のある作戦幕僚の本多一佐だ。

何を今更といわんばかりに皮肉っぽく鼻で笑って、一佐は続けた。

「もし米軍が撤退するなどという情報が事前に流れれば、各国軍は先を争って退却し、外太陽系はあっという間にもぬけの 殻でしょう。

それをわかっている米軍が、本気で事前に通告などすると思っていたのですか?

アメリカはね、最初から我々を〈レギオン〉への盾・・・・・・いや、生贄にして、時間を稼ぐ算段だったのですよ。

そのために虚構の防衛戦を演出して我々を安心させておく一方で、当然主力部隊の撤退は、既にほぼ完了済み。

ビゼルトの海兵隊が玉砕したという『美談』も、どこまで信じていいのやら」

平然とそう言ってのける本多一佐が、先ほどの会談の時に実は驚いて青くなっていたのを、詩織はしっかり見ていた。

あれだけ驚いていたくせに、自分は前から気付いていたなどというようなでまかせが、よく恥ずかしげも無く言えたものだ。

「こちらでは数日前から暗号形態の変化で艦隊レベルでの移動を察知してはおりました

が、先ほど申し上げました通り旗艦イリノイとその直衛艦隊は高度にステルス化されており、その正確な所在は掴めていま せんでした。

しかしこれではっきりしました。

セドナに集中する指揮通信系はダミー、第十一支援隊のレーダーに映っていた、防衛線に展開する大艦隊の正体は、事 前に散布されたデコイから発信されている欺瞞情報といったところでしょう」

黒田二佐が淡々と補足説明し、加藤宙将補はテーブルに拳を叩きつけた。

「やってくれたな・・・・・・!ヘイリーめ、何が誠意ある事前通告だ!」

怒りに身を震わせる加藤宙将補をよそに、本多一佐がトークショーに招かれた政治評論家よろしく長広舌をぶち始める。

「人類の大同団結など、結局は絵に描いた餅だったのですよ。

アメリカは〈レギオン〉の襲来を、日本やEUを蹴落とす千載一遇のチャンスがきたと内心狂喜しています。この戦争で自国 の国力だけは温存させておいて他の国を上手に疲弊させることができれば、戦後の世界で主導権を握れますからね。

『自ら傷つきながらも身を挺してエイリアンから人類を救った正義のリーダー』という立場をオーソライズするためには、宇宙 植民地の犠牲など安いもの・・・・・・。

過去の大戦で証明された、奴等の常套手段でしょう?

ナチス・ドイツや大日本帝国が、今度はエイリアンに摩り替えられただけの話ですよ」

「そして謀略の餌食とされるのは、またしても我々の祖国か。

どこまでやり方が汚いんだ、あの国は!」

「ふん、人間の敵は、やはり同じ人間だったということじゃないかね?」

一人が怒りも顕わに声を上げ、一人が嘆くように述懐する。

地球外生命体による侵略という人類史上未曾有の危機を前に、一度は国家・民族・宗教の別を超えた人類の大同団結を 掲げ、その崇高な理想でもって国連軍を主導したのと同じ国が、今等しく地球を故郷とする同胞を欺き死なせる目的でデ コイまでばら撒いているという信じ難い現実に、誰もが強い衝撃と、それ以上に深い憤りを覚えていた。

議論が紛糾する中、会議机の上座で手を組み一人黙していた老人が、初めて口を開いた。

「・・・・・・英雄になりたがっているのは、彼等だけではない」

土星防衛隊総監、根本宙将である。

最高指揮官の重々しい言葉に皆論争を中断して黙り込む。

その一人一人の目を鋭い眼光で見据えながら、総監は続けた。

「米国の身勝手な行動に諸君が憤りを禁じえないのは、私にも理解できる。

だが我々はあくまで軍人であって政治家ではなく、政治的問題に関する憶測や議論に過度の時間を費やすことはその本 分ではない。

いかなる状況下であっても与えられた任務完遂のため最善を尽くすのが軍人に課せられた責務であり、そのための作戦を 立案するのが、各幕僚の役目だ。

この場合、米艦隊主力が既にオールトから退いているのだとすれば、すなわち〈レギオン〉は無傷の戦力で太陽系深部へ の追撃が可能となるということであり、その第一波がこの土星圏に到達する時期が想定より早くなるということ・・・・・・状況は それ以上でもそれ以下でもありはしない。

・・・・・・作戦幕僚!」

「はっ!」

自説に酔ってふんぞり返っていた本多一佐が、慌てて姿勢を正す。

「これまでの計画の前提となっていた米艦隊の防衛ラインを除外して、現状の戦力で達成可能なタイタン防衛のための作 戦計画を一から練り直せ。

米艦隊の行動を予見していたのなら、当然それを想定した準備もできているはずだな?」

総監の厳しい詰問に、本多一佐は宿題を忘れてきたのを先生に見つかるのを怖れる子供のようにたじたじとなった。

「・・・・・・も、勿論であります!」

身を竦ませたまま、かくかくと頷く。

嘘を言っていることは誰の目にも明らかであったが、総監はそれ以上追求しようとはしなかった。

「よろしい。細部は情報幕僚、航宙幕僚と詰めるように。いいかね黒田君、藤沢君?」

「了解しました」

詩織が即答し、黒田二佐は黙って首肯する。

多くの幕僚たちが米軍への怒りで我を忘れていた時、ただ一人軍人として必要な状況把握に徹していたこの老将に、詩織 は感銘を受けた。

今更感情的に喚いたところで米軍が帰ってきてくれるわけではないし、国際情勢は幼稚な正義感で語れるものではない。

そしてそこにどんな小汚い政治の力学が働いていたのかなど、この状況を打開するにはさして重要なことではない。

今ここで自分たちが知っておかなければならないことは、強暴な地球外生命体が大挙してこちらに侵攻してきており、あて にしていた米軍は既にこっそりと退却した後で、そして取り残された自分たちだけの力でこれに立ち向かわなければならな いということだけなのだ。

二人の返事に満足した後で、総監は再び表情を引き締めた。

「率直に言って、我が防衛隊が現在保有する戦力だけで、今後の〈レギオン〉の侵攻を阻止し土星圏の安全を維持するこ とは極めて難しい。

遺憾ではあるが、状況次第では『引き揚げ』も十分あり得るだろう」

『引き揚げ』――その言葉の意味するものの重大さに、全員の表情が強張る。

総監もまた、厳粛な面持ちで言葉を継いだ。

「しかし、現時点でこの土星防衛隊が航宙幕僚監部より与えられている任務は警備区域の防衛であり、この任務を変更す る新たな命令が下されるまで、我々の一切の行動は現在の任務の完遂を基準とせねばならん。

非現実的なことを言っているのは百も承知だ。

だが、ひとたびこの掟を破ってしまえば、我々の軍人としての存在意義は失われてしまう。我々は戦闘指揮において賢明 であることが要求されつつも、大局においては敢えて愚直にならねばならんのだ」

今更ながらに自分たちの置かれた状況の厳しさを悟って、部屋全体を暗い雰囲気が覆う。だが次の瞬間、一転して力のみ なぎった総監の声が響き渡り、幕僚たちの耳朶を打った。

「ただし!これだけは決して忘れるな。

この組織が創設されて二五〇年、掲げる名前が変わっても、我々が守り続けてきた自己完結の精神は変わることなく、 我々の誇りであり続ける。

有事にあって例えいかなる他国の助力にも依存や期待ができない場合でも、日本国民の生命、財産、そして国家の主権 は独力で防衛する、それができずして何のための自衛軍か!・・・・・・そのことをエイリアンに、そして米軍に見せつけてや れ」

揺るぎ無い決意のこもった一喝に、幕僚たちは拳を固く握り締めた。

「・・・・・・以上だ。諸君の能力に期待している」

根本総監はそれだけ言うと席を立って〈作業室〉を後にする。

その場にいた全員が直立し、総監の背中に敬礼した。

老人の小さな背中が、その時の彼等には何倍も大きく感じられた。



「黒田二佐・・・・・・少しよろしいでしょうか」

 会議終了後、帰り支度を整えている黒田二佐を、詩織は呼び止めた。

会議中から気になっていたことが一つあったのだ。

「いかがされましたか、藤沢航宙幕僚?」

情報幕僚は柔らかな物腰で詩織の方を振り返ると、親密で優しげな笑顔を浮かべた。

彼は階級の差に関係無く誰に対しても紳士的な軍人らしからぬ人間なのだが、自分より年上の男性で、しかも二つも階級 が上の佐官からこうも丁寧な態度で接せられると、逆にこちらの方がかしこまってしまう。

詩織はしばらく躊躇っていたが、やがて意を決して訊ねた。

「・・・・・・その米艦隊の情報ですが、シャンデルナゴルを守備しているEU軍には伝えたのですか?」

オールトの雲に浮かぶ小惑星シャンデルナゴルには、かつて国連宇宙軍が〈レギオン〉の太陽系への侵入を阻止するた めの最終防衛ライン『絶対防衛圏』の主要拠点の一つとして、ビゼルト、ルテチア、ケルゲレンと並んで堅固な宇宙要塞を 建設しており、ビゼルト要塞が陥落し防衛ラインが破られた現在もなおドイツ軍・ポーランド軍の混成部隊二万人余りが内 部に立て篭もって、攻め寄せる〈レギオン〉の大群に対し果敢に抗戦を続けているはずだった。

この要塞を死守することが、必ずや人類全体にとって希望に満ちた明日へとつながるのだと信じて。

そして、共同防衛規定通りならばじきに掩護に駆けつけてくるはずの米外太陽系艦隊を待ち続けながら。

 もしもEU軍がまだ米艦隊が撤退したことに気付いておらず、このまま来るはずの無い援軍を待ち続ければ、彼等は〈レ ギオン〉に完全に包囲されて退路を絶たれ、孤立無援の状態で全滅することになる。

今ならまだ脱出できるかもしれないのに、だ。

 黒田二佐は一瞬、詩織がどうしてそういうことを訊ねるのか理解できないというような顔をした。

ややあって彼は静かに首を横に振って、答えた。

「・・・・・・その必要は無いでしょう。欧軍には欧軍の目と耳があるでしょうから」

「・・・・・・」

その何気ない言葉の裏に、ひどく冷酷な論理が隠されていることを感じて、詩織は黒田二佐を睨んだ。

この男も結局のところ、本質においては『彼等』と同類なのだろうか。

黒田二佐の顔には、先ほどと変わらぬ笑みが貼り付いている。

しかし、詩織に向けられたその目は笑っていなかった。

黒田二佐に一礼してきびすを返しながら、詩織は根本総監が最初に言っていた言葉を苦々しく思い出していた。

英雄になりたがっているのは、アメリカだけではないのだ。





その夜、おねえちゃんはこれまでより少し早く帰ってきた。

今朝いっていた忙しい仕事が終わったのかと思ってわたしが喜んだら、おねえちゃんは悲しそうに首を振って、今日はたま たま早かっただけで、まだ済んでないのよ、ごめんね、って頭を下げた。

何だか勝手に喜んでしまったわたしが悪いことをしたみたいで、せめて夕ご飯はつくってあげたかったんだけど、それも朝 ぼけぼけしてたお詫びにと、おねえちゃんがつくってしまった。

おねえちゃんは仕事で疲れているはずなのに、食事中もずっとわたしの話を聞いて笑ってくれて、わたしは勿論嬉しかっ たけれど、同時に少し申し訳ない気分だった。



寝る前におねえちゃんは、わたしにお話を聞かせてくれた。

おねえちゃんは昔のお話のこととなると学校の先生よりも物知りで、仕事が早く終わった日の夜は、わたしに色々な話を聞 かせてくれる。悪い竜を退治した神様の話や、竹の中から出てきたお姫様の話。

でも、その日おねえちゃんがしてくれたお話は、わたしがこれまで聞いたことのないものだった。

それは、遠い空の上で泣きながらうたを歌っている女の子の、少し不思議なお話。

何だか悲しくて、寂しくなるお話。

・・・・・・どうしてだろう。

それは初めて聞くはずのお話なのに、何故だか不意に、どこかで聞いたことがあるような、見たことがあるようなおかしな感 じがして、胸がもやもやした。

 そんな、少し不思議なお話を聞きながら、わたしは眠りについた。
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